2度目の最期にさよなら

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 ある日突然、送り主の名前がない箱が届いた。中にはワインレッドの封蝋が押された真っ白な横封筒に黒電話の受話器だけが入っていた。手紙を開けてみると活字が印刷されていた。 「辻本直人様  突然お送りして申し訳ございません。  この電話は1度だけ5分だけ会えなくなった人とお話することができます。  よろしければお使いください。」 一度だけ会いたい人がいる。 中学からの大事な親友で短髪で真っ黒な髪なのに柔らかく、黒猫みたいな印象だった。朗らかに笑い、会話が思い出せない日常が二度忘れない思い出になるとは思わなかった。 仲村佑真(ゆうま)は半年前に亡くなった。部活帰りに交通事故に遭ってそのままさよならも言えずに天国に行ってしまった。その日もいつものように部活でいつものように汗をかき、部室でだらけながら彼女がいる部員をいじったり、帰りにコンビニの駐車場でアイスを食べたりした。コンビニで別れた後、佑馬はスピードを出した車と正面衝突し、そのまま亡くなった。即死だったそうだ。身体は見ない方がいいと言われ、最期には顔だけ見ることができたが切り傷が痛々しかった。俺はその時「今までありがとう」としか言えなかったが、佑馬は誰にも何も言えず、そのまま一人で行ってしまった。あっという間に半年が経ってもお前がいない時を真っすぐに歩めずにいる。  自分の部屋に上がり、受話器をじっくりと見る。受話器は黒く、一見普通のものに見えるが、05:00と表示されたタイマーとボタンが2つしかない。電話をかけるボタンと切るボタンだけだ。シンプルだがこれで本当にかかるのかわからないが、もしこれであいつとしゃべられるのならこんなに願ったことはない。何度も深呼吸をし、通話ボタンを押すとコールが鳴る。9回目のコールが鳴ると一度静かになり、受話器のタイマーを見ると04:59と表示された。
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