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「ねぇ、お持ち帰りしない?」
サキの腕に絡みついてにっこり笑う彼と出会ったのは、ほんの一時間ほど前だった。
サキがヴォーカルとリーダーを務めるヴィジュアル系バンド、セルスクェアはギタリストの脱退が決まっている。たまたまそのタイミングで、ミュージシャン仲間のタクヤと呑む機会があったのでその話をしていた。
「そんで、後任の目星ついてんの?」
そう聞かれて、サキは首を振る。
「まだ全然だ。オーディションしようと思っているんだが、誰かいるか?」
「うーん…。ああ、そう言えば」
タクヤは少し考え、それから思いついたように手を叩く。
「上手いし、ルックスもいいし、面白い奴いるよ?」
「面白い?」
「歳はいくつでもいいか?」
「それは問わない」
ギターが上手くてルックスが良いなら、あとは音がバンドと相性が良いかだけだ。年齢などは問題ではない。
「28だから…サキとは16歳差か」
「若いな。でも上手いなら会ってみたい」
「ハタチから専門学校の講師やってるくらいだから、かなり上手いよ」
「お前よりか」
茶化すと、人気ギタリストの彼は肩を竦める。
「悔しいけどな」
そう言いながら、彼はスマホを取り出した。
「呼ぼうか?」
「今からか?」
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