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「ガウス様。ご夕食の準備が出来ました」
「オゥワァア!!??」
「……どうかなさいました?」
「……い、いや。別に」
先ほどまでグレイスとのキスの感触を思い出してたのもあってか、いつのまにか扉の前に立っていたメアリーに、ガウスは肝を冷やした。
(まさかさっきの……見られてねぇだろうな?)
「?ガウス様?」
「あぁ~~……お前、見たか?」
「何をですか?」
「何ってさっきの……あぁいや……別に。何も見てねぇならいい」
「?」
よくよく考えれば、唇に触れようとしただけであの日のキスを思い出してたなんて他の奴に分かるわけないだろうと安心したガウスは、気にしすぎていた自分が急に馬鹿らしくなって頭を掻きむしる。
(一度、あの亜人野郎を頭から外さねぇと自分まで馬鹿になっちまう。そもそも俺にとってどうでもいい奴なんだ。何も考えるな)
「ガウス様。そんなに掻きむしってしまっては傷がついてしまいますよ」
「あぁ分かってる。もう何も考えねぇ」
「……そう、ですか」
「あぁそれより、飯が出来たんだったな」
「はい、そうです。グレイス様とのお熱い夜の日を思い出して、物思いにふけっていらっしゃったガウス様」
「まてテメェ!!見てたんじゃねえぇか!!」
「見ていませんよ。女の勘です。いや……腐女子の勘です」
「は?ふ、女子?」
「失礼しました。先ほどの発言は、お気になさらないでください」
コホンと一つ咳払いをすると、メアリーは何事もなかったみたいに凛とした顔を作る。
「しかし……そうやってグレイス様の事を想っていらっしゃるのなら、恋人になる日も近いかもしれませんね」
「は?」
「年下美青年と年上凶悪面のカプなんて最高……じゃなかった。お二人が恋人になれば、私達も嬉しく思います」
澄ました顔をしてると思いきや、ニヤつくのをこらえ、片側の口角だけをピクピクさせているメアリーに対し、苛立ちを覚えるガウスだったが。それよりもずっと引っかかっていたことがあり、大きく息を吐いて一度怒りを鎮めた。
「なぁ、一つ聞きてぇんだが……テメェ等はそれでいいのか?」
「……その……テメェ等というのは、私達のことでしょうか?」
「あぁそうだよ。他に誰がいるっていうんだ」
ベットの上で立膝をして、ガウスはメアリーを睨みつける。
「アイツから聞いてるだろうが、俺は奴隷商人だ。捨てられた餓鬼共を拾ってはクソ共に売りつけてやったし、金の為ならなんでもやった。そんな悪党をご主人様の恋人なんかにしてもいいのかよ。テメェ等は」
ガウスは、自分がここに来てから敵意すら見せないメアリーとロックに違和感を感じていた。
自分が慕う人が、汚い事に手を染めてきた悪人を迎え入れて「恋人にする」なんて言ってきたら、普通誰だって反対するだろう。
それなのにメアリーとロックは、ガウスを普通に客人のように扱い。そして二人が恋人になることを望んでいる。
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