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その森は魔力を持った獣達がうろついているということもあり、滅多に人は立ち入らない場所である。だからこそ、いらなくなった子供が捨てられている事が多々あるのだ。
「オイ。いたぞ」
手下の一人が指さす先には、洞窟の中で体を丸めて寒さをしのいでいる亜人の少年がいた。
冬が近いというのにボロボロになった薄いシャツ一枚で、所々怪我した痕も残っている。靴どころか靴下すら履いていない素足は指先まで真っ赤になっていた。
だがそんなことは、ガウス達にとってどうでもいいこと。
寧ろ体が弱っている今こそ捕まえやすい。亜人の少年が衰弱死してしまう前に早く捕獲してしまうと、ガウス達は洞窟へ近づいていった。
「ヒヒッ。ようやく見つけたぜぇ」
男達の卑しい笑い声に、少年は丸まっていた身体を起こして、威嚇するように耳を逆立てた。
しかし、自分の身体がどれほど衰弱しているのか自覚しているのだろう。ガウス達を睨む眼は、恐怖と焦りに染まっていた。
「な、なんですか……貴方達」
「大丈夫大丈夫~~。お兄さん達は、君を助けに来ただけだよぉ?」
「そうそう~~ヒヒヒッ」
少年にかける言葉とは裏腹に、ガウス達は腰に差していた短剣を抜いて、脅すようにくるくる回す。
「どうせ行く当てなんてねぇんだろ?だったら、大人しく俺の商品になれよ。亜人」
短剣左手に持ち替えたガウスが、少年の腕を掴もうと手を伸ばした瞬間。
泥に混じった土がガウスの顔面に降りかかり、その隙に少年は隙間を潜り抜けて全速力で走った。
「クソッ!!追いかけろ!!」
「へい!!」
素足にもかかわらず森の中を走る少年の後ろを、ガウスと男達は見失わないよう追いかけた。
だが、元々体力がなくなっていた少年の足はもつれて木の枝に引っかかり、そのまま地面に勢いよく身体を叩きつけられた。
「うっ、ぁ、痛い…痛いよ…」
「はぁ、はぁ……たくっ。手間取らせやがって」
転んだ少年に追いついたガウス達は、逃げられないよう取り囲み。鉄製の黒い手錠を取り出した。
「観念しろよ。どうせテメェには、奴隷になる運命しか待ってねぇんだ」
『奴隷』という言葉と、逃げ場のない絶望的状況。
少年は悔しさと恐怖に唇を噛みしめ、最後の希望を訴えるように、震える声で叫んだ。
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