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「……グレイス様」 瞬きをした時には既に、グレイスはガウスの側で膝を折り、燃え上がっていた炎を一瞬で消してしまっていた。 服はボロボロになり、肌は焼きただれて重傷を負っていたガウスだが、なんとか息をしている様子を見て、メアリーとロックは安堵の息を漏らす。 「ロックさん。治療をお願いします」 「あ、は、はい!!」 いつもより冷たいグレイスの口調に少し動揺したロックだったが、言われた通りすぐにガウスの方へ近寄り、魔力を使って治療を始めた。 後はロックに任せておいて大丈夫と判断したグレイスは、怒りに満ちた眼をロイドの方へと向ける。 「さてと。ではロイドさん。僕は今相当怒っているのですが、どうしますか?このまま殺し合いでもしますか?」 「……は?なにを……言ってるんだ……グレイス。俺達は、魔獣を倒した仲間だぞ?なのに」 「なのに。僕の大事な人を傷つけたのは貴方ですよ?ロイド・アルフェルトさん」 腰に差していた剣を引き抜いたグレイスから、冷たい風がロイドに向かって吹き荒れる。 それは、今まで向けられたことのない殺気と怒りだった。 「……なんで。なんでだよグレイス」 長年グレイスと連れ添ってきたロイドは、彼が普段感情をあまり表に出さないタイプだと知っていた。 自分と話していても、他人から好意を向けられても、グレイスはいつだって冷静で優しい亜人だと、ロイドは知ったつもりでいたのだ。 だからこそ、自分じゃない誰かの事で感情をあらわにするグレイスに、ロイドは今までにない悔しさが込み上げていた。 「なんで……なんであんな奴に、そこまで……」 「あの人なら、本当の僕を好きになってくれるからです」 「……は、はは、本当のお前?それなら俺だって!!」 「いえ、ロイドさんには無理です」 「そんなこと!!」 「僕は、ガウスさんを選んだのです」 「っ!!」 ロイドの足がふらつく。 「っ……なぁグレイス。お前は、あのガウスとかいう男に操られてるんだよ。英雄のお前を自分のものにしようと、あの男が……」 「先ほどまで彼と戦っていたロイドさんなら知っているはずですよ。あの人に魔力は無いってことを」 その言葉に、ロイドは何も言い返せなくなってしまった。 確かに最初は、ガウスがグレイスを操っているのではないかと疑っていたが、魔力を持っていないと分かった今、それはあり得ない。 ということは、ガウスの言っていたことは全て事実だったと、認めるしかなくなってしまったということだ。 「なんで……どうして……」 「ロイドさん、選んでください。僕とこのまま剣を交えるか、それとも今日は大人しくお帰りになられるか」 矛先を向け、二つの選択肢をロイドに投げかけるグレイスの眼差しは本気だった。 ずっと相棒の様に慕って、ずっと密かに想ってきた相手から向けられる敵視に、ロイドの怒りと苦しみは増していく。 「っ……あぁ。今日は大人しく引き下がってやる。でもなグレイス、いつかお前を必ず……あの男を引きはがしてやるからな。待ってろよ」 そう伝えると、剣を地面に突き刺し、自分自身に大きな炎の渦を纏わせたロイドは、そのまま姿を消してしまった。
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