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張り詰めていた空気がなくなると、グレイスはホッと軽く息を吐いて、剣を鞘に納めた。
あれだけ喧嘩を売るような態度をとっていても、ロイドの強さを知っていたグレイスにとって、あのまま戦闘にならなかったことは、少し安心だったらしい。
「申し訳ございませんグレイス様。私達がいながら、ガウス様をお守りすることが出来ず……」
「いえ。相手が相手ですから、メアリーさん達も無事で何よりです」
「グレイス様!その……ガウス様の傷は癒えました……」
「有難うございますロックさん。後は僕の方で寝室へ運んでおきますので、ゆっくり休んでいてください」
「あ、はい!」
ロックの回復魔法のおかげで、先ほどまでの生々しい傷跡は無くなり、規則正しい呼吸を繰り返しているガウス。
だが頬に触れると、平熱よりも高い熱を感じたグレイスは、未だ安心できない不安で耳が垂れ下がってしまう。
「僕は……自分勝手な事をしてしまったんでしょうか……」
メアリーとロックに背を向けたまま、独り言のように呟くグレイスに、二人は少し驚いて思わず互いの顔を見合わせた。
「僕がガウスさんを無理矢理連れてきたから、無理矢理恋人にしようとしたから、こんなことになったのでしょうか……」
「それは……」
二人は、グレイスがどうしてガウスを恋人に選んだのか、その理由を知っていた。
だからどうして「自分勝手」なんて言ったのかも、そんなに不安になっているのかも分かっていて、困っている主人に「そんなことありませんよ」なんて、慰めの返事も出来なかった。
「確かに、自分勝手な行いだったかもしれませんね。グレイス様」
「ガウス様のお気持ちも無視して、ここまで連れてきちゃったわけですしね……」
「うっ……や、やはりそうですよね」
でも、それでも二人は、ガウスの事でこんなにも思い悩んでいるグレイスの姿に、思わずクスリと笑っていた。
「でも、グレイス様が本気なら私達は応援いたします」
「そ、そうです!!ガウス様を支えてあげられるのは、グレイス様だけですし!!」
「メアリーさん……ロックさん……」
二人の言葉に、グレイスの耳が少し上を向いた。
「でもいつかは、ガウス様にもちゃんと言わないといけないと……って……僕は思います。こ、恋人に選んだ理由とか……」
「そう、ですよね」
ロックの言葉で再びグレイスの耳が垂れ下がるのを見たメアリーは、これ以上は首を突っ込むべきではないと判断したのか、ロックの後頭部に手を当てて一緒に頭を下げると、すぐにその場を後にした。
眠ったままのガウスと二人っきりになったグレイス。
自分の気持ちを確かめるようにガウスの唇を親指で撫でると、自分の唇へそっと当てた。
これが愛おしいという感情なのかどうか。
それとも、ただ自分が愛されたいだけのかどうか。
それはまだ、ハッキリと分かっていない。
「ねぇロック。男同士の三角関係って、素敵よね……」
「……メアリーさん……鼻血は魔法で治せませんからね」
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