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「では、なにかあったらすぐに僕を呼んでくださいね」
「待て」
「いたたたたた」
ガウスに背を向けた瞬間耳を引っ張られ、すぐに引き戻されるグレイス。
「ど、どうされたのですか?流石に耳を引っ張られるのは痛いのですが……」
「…………」
「ガウスさん?」
俯いたまま、何故か考え込むように目元を手で覆い隠すガウスに、様子がおかしいと感じたグレイスは、少し心配するように顔を覗き込んだ。
するとそこにはーー。
耳と頬を赤らめ、片目だけをグレイスに向けるガウスの顔があった。
「……えっ、と」
「うるせぇ。何も言うな。これは熱のせいだ」
「……本当に熱のせい……ですか?」
「っ……チッ。勝手に勘違いして舞い上がってんじゃねぇぞ。別に俺はお前を好きになったわけじゃ」
「でも、僕を引き止めましたよね?」
グレイスはガウスの頬に手を添えて、顔を近づける。
「ガウスさん。どうして先ほど、僕を引き止めたのですか?」
「そ、れは……だな」
「それは?」
「っ……」
ガウスは何も答えれなかった。
ガウス自身、どうしてあの時グレイスを引き止めてしまったのか分からなかったからだ。
自分に背を向け、部屋から出ていこうとしたグレイスを見て、唐突に『行ってほしくない』という気持ちが、ガウスの手を動かしていた。
それが一体どういう感情だったのか、今のガウスではまだ言葉に出来ずにいた。
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