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「誰か……誰か助けて!!」 精一杯の少年の声が森の中を木霊するが、突然草木を揺らすほどの風が吹き荒れ、声も一緒に飛ばされてしまった。 「ぁ…あ…」 絶望する少年の姿に、男達はげらげら笑い。ガウスは鼻から息をもらして冷笑した。 「叫んだって助けなんて来ねぇよ。こんな危ねぇ場所に、人なんて入ってくるわけねぇんだからなぁ」 完全に慢心しきったガウスが、再び少年の腕を掴もうとした時。草を踏む音が聞こえた。 「おや。こんなところに居たのですね」 「は?ッーー!!」 肌を刺す様な冷たい風がガウス達を襲うと同時に、少年とガウスの間を鋭い何かが通り過ぎた。 「なっ……なんだ」 「兄貴!!あ、あれ!!」 「ぁあ?」 怯える手下達が指さす方へ顔を向けるガウス。 それは先ほど、ガウスの目の前を通り過ぎたものだった。 「……氷?」 太い木の枝に突き刺さっていたのは、つららの様な鋭い氷の柱だった。 「あれは……氷の魔力……」 「そんなまさか」 ガウスと男達に戦慄が走る。 「こ、氷の魔力を使う奴なんて……そんなの」 「たった一人しか……」 「どうもこんにちわ。奴隷商人の皆様」 透き通るような声が、ゆっくりとガウス達の前に現れた。 「僕は氷の魔力を操る亜人。グレイス・ユージニスです」 青い髪に青い瞳。頭部の左右には白くふわふわした兎耳が生えた美しい顔立ちの青年が、白いコートに隠れている腰の剣を構えながらガウス達の前に現れた。 「グレイス・ユージニス……英雄ロイドと共に魔獣と戦った氷の魔力を持つ亜人」 今から一年前。 魔力を暴走させた獣達が街へと侵入し。人々は混乱の渦に陥れられていた。 そんな時暴れる獣達を退治したのが、炎の魔力を使う英雄ロイドと、その仲間の一人であるグレイス・ユージニスだった。 二人は街を救った英雄としてたたえられているが、基本的にはあまり姿を現わさないため、ガウス達もその顔を見るのは初めだった。 「僕の事お詳しいんですね?もしかして……ファンというものですか?」 「はぁあ!?んなわけねぇだろ、なめやがって!!言っておくが、数ではこっちのほうが有利なんだよ!!」 肯定的な姿勢を見せるガウスの姿に、怖気づいていた仲間も再び短剣を構え。グレイスに刃を向けた。 五対一に動けない子供が一人という、グレイスにとっては圧倒的不利な状態。にもかかわらずグレイスは涼し気な笑みを浮かべていた。 怯えも緊張感も感じられないグレイスの余裕の表情に、ガウスは怒りがこみあげていく。 「チッ。そのお綺麗な面ぐちゃぐちゃにして、悪趣味な変態野郎に売りつけてやらぁあ!!テメェ等かかれぇえ!!」 ガウスの合図と同時に、手下達はグレイスに向かって走りだした。 「全く。とても野蛮な方々ですね」 グレイスは右足を一歩前出すと、鞘に納めていた剣をゆっくり引き抜いた。
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