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「久々街へ来ましたが、やはり活気があっていいですね!!ね、ガウスさん」
「まぁ確かに、久々屋敷の敷地以外に出れたのは清々しい気分だな」
「あ、はは」
二人にとって久しぶりの街は、変わらず色んな種族の人々が集い、店は賑わいを見せていた。
「ガウスさん。何処へ行きたいですか?」
「あぁ?あぁ……別にねぇから、テメェに任せる」
「分かりました!!でしたらこの先に、美味しい果物屋さんがあるので、そこへ行きましょう!!」
「……あぁ」
いつもよりウキウキ気分で歩くグレイスの後ろを、仕方なさそうに着いて歩くガウス。
「疲れたらすぐに言ってくださいね!!」
「お前のテンションに疲れるわ」
「だって、初めてのデートですし。気分くらい上がりますよ」
「……はいはい」
自分ばかりが喋って、隣に来ようともしない。ただキョロキョロと周りを見渡しながら、時々グレイスが前にいるのを確認するガウス。
これでは全然デートらしくないんじゃないか?と思い始めたグレイスは、ゆっくりと歩くスピードを遅めて、ガウスの隣に立ち。横顔を見つめてみる。
最初に出会った時と変わらない目つきの悪さと、癖っ毛だらけの髪。頬の傷も、きっともう消えることはないのだろう。
一つ違うところといえば……。
「そういえば、目の下にしていた赤いメイクは、もうしなくてもよろしいんですか?」
出会った時は、目の下に赤いラインを描いていたガウス。
しかし一度屋敷のお風呂に入って綺麗に消えてしまい。それからはそのメイクはしていなかった。
「僕は気にしませんよ?変だとも思いませんし」
「……別に、ただの印みてぇなものだったからな。テメェの屋敷にいるなら必要ないだけだ」
「そう……ですか」
どことなく罰が悪そうに視線をそらすガウス。
「つうか、ジロジロ見るんじゃねぇ。俺の顔なんか見ても面白くねぇだろ」
「面白くはないですが……可愛いです」
「……頭沸いてんのか?」
「?沸いてないですよ?」
冗談なんかではなく、本気で言っている様子のグレイスに、ガウスは黙り込んだ。
きっと普通の人より悪人顔で、一般人に怖がられそうなタイプ。それでもグレイスは、本当にガウスを可愛いと思ったのだ。
いつか自分に笑いかけて欲しい。
いつか自分を好きだと言って欲しい。
もっとわがままを言えば……抱いてみたい。自分の手で、いつもの怖い顔を泣かせてみたい。気持ちよくさせたい。甘い声を聞きたい。
「っ……」
グレイスの中で、熱い何かがグツグツと煮えて溢れそうになる。
「……ガウスさん」
だんだん煩くなる鼓動。
だんだん熱くなる身体。
ーー触れたい。
その一心で、手を握ろうと恐る恐る近づいた時だった。
「ねぇ、あの人もしかして……」
「え、やっぱり!?」
グレイス達とすれ違った二人組の女性が、グレイスの顔を見るなり黄色い声を上げると、慌てて戻って二人の前に立ち塞がった。
「あ、あの!!もしかして英雄のグレイス・ユージニス様ですか!?」
「えっ……とぉ……ですね」
マズいと感じたグレイスだったが、丸出しの顔はもはや隠し切れない。
「ホントだ!!本物だ!!」
「英雄様見るの私初めてぇ~~!!」
「握手してください!!」
「私も!!」
一人の声で、グレイスの前には街の人達がどんどん群がっていった。
そうしているうちに、隣にいたガウスは野次馬の中へ飲み込まれていき。いつのまにか陰でグレイスを待つはめになっていた。
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