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「オイオイ。これ、ヤバくねぇか?」
英雄同士の戦いは、その辺の喧嘩とはわけが違う。
魔力は使ってないものの、剣がぶつかるだけでその衝撃と二人の殺気が周囲の人達を恐怖へ染まらせていく。
「オイ、もっと離れろ!!俺達まで巻き込まれるぞ!!」
「ロイド様!!グレイス様!!もうおやめください!!」
「やだ……ロイド様とグレイス様が争うところなんて見たくないわ」
「キャーー!!早く誰か止めてーー!!」
先ほどまで観戦していた周囲は大騒ぎと化していく。
このままでは、二人の英雄としての立場が失われてしまうどころか。グレイスは一生街の人達から信用されなくなってしまうかもしれない。
「俺の……せい……」
いや、アイツの事なんかどうでもいい。他の奴等からこれからどう思われようと、俺さえ助かればそれでいい……そう思いたかった。
だが、ガウスは自身の気持ちを誤魔化すことは出来なかった。
「クソッ。どうする……」
このままでは、勝負がつく前に騒ぎを聞きつけた剣士や魔導士が二人を拘束しにくるだろう。
そうなる前に二人を止め、グレイスの信頼を取り戻さなければ……そう思った時だった。
「これで思い知ったでしょうガウス君。君みたいな人間は、あの男と同じ明るい道はもう歩けない」
ガウスの耳元で囁く低く甘い声。
咄嗟に後ろを振り向くと、茶色のジャケットを羽織り。真っ白な顔に涙の様なマークが描かれた男が、不敵な笑みを浮かべながら立っていた。
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