44人が本棚に入れています
本棚に追加
青く透き通った美しい刃が、圧倒的な存在感を曝け出す。
「さぁ、行きますよ」
グレイスが剣を上から下へ一振りした瞬間。
地面から氷の柱が次々と連なって出来ていき、巻き込まれた男達は全員その場で氷漬けになってしまった。
「なっ……んだと」
一瞬の出来事に、一人残されたガウスは開いた口が塞がらない。
「申し訳ありません。少々魔力を強めすぎてしまいました。でも安心してください。半日も経てば、次第に氷も溶けてきますから」
ーーちょっと?
ーー強めすぎた?
グレイスの言葉は、先ほどまで慢心していたガウスの心を簡単にへし折ってしまった。
今からガウスがどんな武器を用意しても、他の仲間を引き連れてきても絶対に勝てないだろう。
まさに英雄の圧倒的な力に、ガウスは武器を落とし。その場で座り込んでしまった。
(これからどうする。どうすればいい。どうしたら逃げられる。どうしたらどうしたらどうしたら……)
もはや勝つことも逃げることも出来ないガウスに、グレイスは容赦なく近づいていく。
「さて。貴方一人になってしまいましたね」
「ヒッ!!」
地面を蹴って、ガウスは必死に逃げようと後ずさる。
「わ、悪かった。俺が悪かったから……」
グレイスの歩みは止まらない。
「こ、殺さないでくれ」
どんなに命乞いをしても、グレイスとの距離はどんどん縮まっていく。
(なんで……なんで俺ばかりがこんな目に)
死が近づいてくると感じたガウスの頭の中では、昔の走馬灯が駆け巡っていた。
子供の頃味わった怒りと憎しみ、生きるために自分を捨てて、逃げて、そして悪に染まったクソみたいな人生を。
(あぁこれが、悪党の、俺の死に方なのか……)
グレイスの剣が刃の向きを変え、眩しく光った時。ガウスは死を覚悟して瞼をぎゅっと閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!