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亜人と人間の間に生まれた少年は、幼い頃から氷の魔力という特別な力を持っていた。 容姿も頭脳も抜群で、周りの人達も亜人だからと差別もしない優しい人達に恵まれ、強い魔力も誰かを助けるために使っていた。 そうして一切誰も傷つけることも、傷つけられることもなく。皆から好かれ愛された少年は、いつしか『英雄』とたたえられるまでになっていった。 容姿も、頭脳も、力も、信頼も、愛も、全てを手にした少年。 だが彼は気付く。 もしも、自分が容姿も頭脳も力もないただの亜人だったら……信頼してくれた人達は、愛してくれた人達は、変わらず自分を信頼してくれるだろうか?愛してくれるのだろうか?と。 一度だけ、少年は嘘をついてみた。 「お父様、お母様。実は僕……どういうわけか、魔力が使えなくなってしまいまして……もしかするともう二度と氷の魔力は使えないかも……しれな……くて」 ちょっとした実験といたずら気分でついた軽い嘘。 しかしそれは、少年の心を酷く傷つけることになってしまった。 「う、そ……」 「そんな……そんなことない。大丈夫だ。すぐに医者に診てもらおう。な?」 少年の父親と母親の顔は、心配と言うよりも絶望に近い表情で悩み込んだ。 「これからどうすれば……」「このことが周りに知られたら……」「魔力が無いなんて……」そんなことばかりをぼやきながら、ショックを隠せずにいた。 息子の魔力が突然使えなくなったと聞けば、親なら誰だってそんな反応をするのかもしれない。 けれど、その時の少年はこう思ってしまった。 ーーあぁ……やっぱり皆が愛しているのは、優秀な僕だけなんだ。と。 それは、大人になってからも同じだった。 ーー皆は、英雄の僕だから愛してくれるんだ。 ーーもしも僕が英雄じゃなかったら。 ーー魔力なんてない、ただのグレイス・ユージニスだったら、誰も僕を愛していない。 彼は愛されたかった。 魔力なんてなくても、私は変わらず貴方を愛していると言ってくれる人が欲しかった。 しかし既に街の人達は皆、グレイスを「英雄」と呼び。愛していた。そんな人達が、今更英雄としてではないグレイスを見てくれるわけがない。 「なら……『英雄』としての僕を嫌っている人間なら?もしも僕が嫌いな人が、僕を好きになってくれたらそれはーー本物の愛になるんじゃないか?」
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