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ガウスは久しぶりに自分の店へと戻ってきていた。
変わらず檻の中には亜人や人間の子供達が鎖に繋がれ、拘束されている。
「……」
「どうしました?ガウス君」
その中に、グレイスと同じ兎の耳を生やした亜人の男の子が絶望に満ちた眼でガウスを見つめていた。
「っ……」
少年の顔が、思わずグレイスと重なってしまう。
もしもグレイスや、メアリーやロックが奴隷として捕まっていたら?
自分は、躊躇なくアイツ等を売れるのか?
そう考えるたび、ガウスの胸はズキズキと殴られているような痛みが広がっていた。
ここの奴隷達は、自分と同じ何も持たない捨てられた出来損ない。ただ売られていくことに絶望して、何もかもを諦めて、生きることすらどうでもよくなってしまった弱い奴等。
そんな奴等に、ガウスは今まで胸を痛んだことなんてなかった。
自分を捨てた親に復讐心も持たない。生にしがみつく勇気もない。そんな奴等に同情なんてしないし。助けたいとも思わない。
(なのに……なんだよ今更。なんでこんなに俺は、コイツ等を見るのが怖いんだ)
「どうしましたガウス君。さっさと行きますよ」
「分かってる」
奴隷達を入れた檻を通り過ぎ、店の奥へ入っていく。
そこには鉄でできた重たい扉が、異様な存在感を放っていた。
「ほら。君が開けてくださいな」
「チッ。うるせぇな……分かってるよ」
ガウスは一呼吸すると、扉に手をかけゆっくりと開けていく。
開いた先は奥が見えないほどの薄暗さ。しかし下へ続く階段だけが、まるで二人を誘うようにはっきりと見えていた。
二人はコツコツと足音を響かせ、階段を下りていく。
すると、オレンジ色の明かりが少しずつ前を照らし始めた。
「よぉ。久しぶりだなガウス」
少し枯れたハスキーボイスが、その人物の姿を映し出す前にガウスの耳へ入ってきた。
階段を降り切ると、地下には似つかわしくないペルシャ絨毯が轢かれており。その中に一つだけ黒のデスクが置かれている。その上は大量の資料が乱雑に置かれてあり、灰皿は煙草の吸殻が山になっていた。
「相変わらずヘビースモーカーですねぇ~~ボス」
「しょうがねぇだろ?吸ってねぇとイライラするんだよ」
そう言って煙草の煙を吐き出しながらガウス達の前に現れた男は、顎に無精ひげを生やし。眠たそうなたれ目で二人を見つめていた。服装もよれよれの黒いシャツで、伸び切った黒髪は寝ぐせでぼさぼさになっており。一見無職の駄目男に見えなくもない。
しかしそんな彼は、奴隷商売を取り仕切るボスであり。ガウスの中で一番恐ろしい男。
そんな彼を前にして、ガウスは冷やせと震えが止まらずにいた。
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