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だがーー。 いくら待ってもグレイスの剣は振り下ろされなかった。 「……な、んだ?」 恐る恐る瞼を開くガウスに、グレイスは問いかける。 「死にたくないですか?」 「……は?」 「死にたくないですか?」 ただ同じことしか繰り返さないグレイスの言葉に、訳が分からないガウスは、ただコクリと頭を下げた。 すると、グレイスは剣を鞘に納め。嬉しそうに頬を緩める。 「では、僕は貴方を殺しません。ただそのかわり……」 グレイスは、座り込んでいたガウスの肩と膝裏に腕を入れると、そのままひょいっと持ち上げた。 「……は?」 ガウスの口から、呆けた声が漏れる。 それもそうだろう。ガウスは今、先ほどまで自分を始末しようとしていた男に、お姫様抱っこをされているのだから。 「いや、なんだこれ、マジで」 羞恥心とかプライドとかよりも、困惑の方が上回っていたガウスは、されるがまま固まっていた。それは、助けられた少年も同様である。 ただ、そんな異常な状況の中でグレイスだけが笑っていた。 ずっと欲しかったものを、やっと手に入れた子供の様に。 「ガウスさん……でしたね?貴方を殺さないかわりに、今日から僕の恋人になってください」 「……は?……こい……びと?」 「はい。恋人です」 「こい、びと……?」 まるで初めて聞いた言葉みたいに繰り返すガウスをよそに、グレイスはそのまま高くジャンプすると、大きな木の枝に足を付けた。 「では、行きましょうか。ガウスさん」 「待ってくださいグレイス様!!」 二人が立つ木の下で、グレイスが助けた少年が叫んだ。 「本当にそんな奴を恋人にするのですか!?ぼ、僕は、貴方様の恋人になるなら喜んでなります!!だから、そんな奴じゃなくて!!」 「申し訳ありません。僕は貴方に興味ありませんので」 美しい微笑みで淡々と答えるグレイスの姿に、少年は目を丸くしたまま固まってしまった。それはまるで、氷漬けにされた男達のように。 「それでは」 少年に頭を軽く下げると、グレイスは木の枝をどんどん飛び越え、何処かへ移動し始めた。 「ちょっ、ま、まてまてまて!!うおわぁあ!!」 腕で支えられているとはいえ、木の上を猿みたいに飛び越えている状況に気が気じゃなかったガウスは、真っ青な顔でひたすら落ちないようグレイスの首に、しっかりと腕を回していた。 それから一分程度したところでグレイスは木から降りると、目の前には木が生い茂る森の中ではあまりにも存在感が際立っている白い洋館が建っていた。
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