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英雄グレイス・ユージニスに連れ込まれてから一週間。ガウスは毎日うんざりしていた。 「おはようございますガウスさん。いい朝ですね」 まずは朝。ガウスの起床は、毎朝七時になると布団の中へ潜り込み、身体を触ってくるグレイスによって起こされる。 「だぁあ!!気色わりぃ事してんじゃねぇ!!」 最初はグレイスを蹴り飛ばして、何度起こされようと二度寝を繰り返していたガウスだったが。三日目までなればもう諦めもついてきてしまい、グレイスと布団を剥がして起き上がるようになってしまっていた。 「はぁ……クソだるい」 「もしかして、体調がすぐれないのですか?」 「誰のせいだと思ってんだよ。つか、さっさと部屋出ていけ」 「着替えなら僕は気にしませんよ?寧ろガウスさんの生着替え見ていたいです」 「出ろ」 「それよりもガウスさん。毎日同じ白のシャツは見飽きてきたので、他の服も着てみませんか?ガウスさんに着させてみたいのが沢山あるのですが」 「いいから出ていけやぁあーー!!」 こんなやりとりが毎朝繰り返され、朝の身支度を終えるまでに疲労が溜まっていくガウスだが。忙しい一日はこれから始まる。 「ほらガウスさん。僕があーんしてあげます」 食事の際は、必ず一回は「あーん」を強要され。 「ガウスさん。お背中お流ししますよ」 入浴中の際は、必ず入ってこようとする。 それからはほぼ監禁状態ということもあるので、ガウスは基本自室に閉じこもっているのだが、グレイスが暇な日なんかは、無理矢理庭に連れていかれたり、自慢の魔法で氷の像を作って披露したり、剣術を披露したりと。まるで子供が親を連れまわしているかのように、ガウスは毎日グレイスに付き合わされていた。 「はぁ~~……クソ疲れた」 こうしてようやく解放されたガウスは、毎度力尽きたようにベットに倒れ込むのが日課となっていた。 「毎日毎日鬱陶しいくらい付きまといやがって……本当にあんなやり方で、俺に好かれようと思ってんのか?アイツは」 いや。どんなやり方でも、好きになるなんて事は有り得ないが。それにしても人づきあいが下手くそではないか?と、ガウスは疑問に思っていた。 一見クールで冷静沈着な男だと思っていたグレイスの行動は、まるで好き放題に大人を連れまわす子供と一緒だった。 もしもそれが、自分を好きになってもらう為にやっている行動だとしたら、随分と空回りしている様にも見えた。 「俺が男だから、相手の仕方が分からねぇとかか?」 しかしグレイスは英雄とまで呼ばれた男。 男友達もいれば、女性関係だって色々と経験済みでもおかしくない……とガウスは思っていたが。もしかするとそれは勘違いなのかもしれない。 「まさかアイツ……友達とかいねぇタイプとかか?いや、それどころか童貞ってこともあり得……」 しかしそこで、ふとあの日のキスを思い出してしまい、言葉が途切れる。 まるで獲物に食らいつく獣の様な眼で見つめてくるグレイスの欲情した顔。頭のてっぺんから足の指先まで支配されそうな深いキス。 到底童貞とは思えない事ばかりだった。 「いやいやまてまて、何を思い出してんだ俺は」 そういえば、あの日からグレイスとキスはしていない。 それでもガウスの脳裏には、あの時の熱い視線とキスの感覚が、ずっと残っていた。 「クソッ……なんだってんだ。気持ちわりぃ」 そう口にしながらも、不思議と不快だと感じなかったキスを思い出し、その感覚が少し名残惜しくて、思わず自分の唇に触れようとした時だった。
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