天女の羽衣

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天女の羽衣

 三人は溶岩の洞窟を歩き続け、蛇神社の神殿から境内に出た。  ヒグラシが合唱していた。  西の空が金色に輝いている。 「黒大蛇は天にかえった。もう天女さんの役目もおわりね」 「ええ、あたしもやっと自由になれます」 「大蛇退治の棒はこの神社から借りてたものだから、返さないといけないわ」  お祖母ちゃんはそういって十束剣で作られた棒を蛇神社の神殿に返した。 「お祖母ちゃん、あの棒、いつから借りてたの?」  蓮が不思議そうにお祖母ちゃんを見つめると、 「忘れちゃったよ」  お祖母ちゃんは笑って誤魔化した。 「ミサお姉ちゃん天に帰っちゃうの?」 「さびしいけどごめんね」 「ぼくお姉ちゃんが好きだ」 「ありがと」  ミサは蓮のホッペにキスした。 「蓮、よかったね」  お祖母ちゃんも涙目になる。 「じゃ、グッバイ」  ミサは微笑み小さく手を振りながら天に舞い上がり始めた。  そのとき、蓮は天女の羽衣の物語を思い出した。  そうだ、ミサお姉ちゃんの羽衣を奪えばいいんだ。  そう思った瞬間、蓮はミサにジャンプして裾に絡まる羽衣を掴んだ。 「蓮、やめなさい!」  お祖母ちゃんが慌てて蓮を止めようとするが、蓮もミサの足にしがみついて一緒にどんどん舞い上がっていく。 「蓮ちゃん」 「ぼくミサお姉ちゃんが好きだから、行かないで!」 「あたしも蓮ちゃんが好きよ」 「じゃ行かないで」 「いいわ。でも、戻ったらあたし長生きできないの」 「そんな」 「5000年も生きてるのよ」 「でもそのうち3000年は絵の中だよね」 「言われてみればそうだけど……」 「ねぇ、行っちゃやだ」 「それじゃ、一つだけ方法があるわ」 「何でもするよ」 「蓮ちゃんの命のエネルギーを半分くれたら生きることが出来るの」 「いいよ」  蓮は躊躇わなかった。 「蓮ちゃん大人になってしまうよ」 「みんないつかは大人になるから」 「蓮ちゃん」  ミサは蓮を抱き締めると、唇にキスをした。  天女の羽衣が二人を覆い、金色の煙が光りを放った。  金の煙はゆっくり地上に降りてくると、お祖母ちゃんの目の前に青年になった蓮とミサが姿を現した。                               おわり  
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