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お祖母ちゃんとドライブ
蓮は小学五年生。
夏休みの蓮の楽しみは、田舎のお祖母ちゃんのところに遊びに行くことだ。お祖母ちゃんの田舎には大昔火山だった神様の山、とっても冷たい小川、クワガタやカブト虫が捕れる森がある。
「じゃ、お婆ちゃん宜しくお願いします」
お母さんが手を振る。
蓮も大きく手を振った。
「行こうか」
お祖母ちゃんがアクセルを踏むと車は急発進した。
「お祖母ちゃんかっこいい!」
蓮は大はしゃぎ。
「年寄りは運転ミスするから免許返納しろっていうけれど、田舎暮らしに車は欠かせないからね」
お祖母ちゃんがつぶやく。
「ほんとだね。お祖母ちゃんの家、山の中の一軒家だもん」
お祖母ちゃんは安全運転第一に高速を飛ばし続けた。
「蓮、天女の羽衣の物語知ってるかい?」
「知らない」
「お祖母ちゃんの田舎には大昔、黒大蛇がいて、天女が退治した伝説があるんだよ」
「すごい! その天女さんバトル戦士だったんだね」
「そうかもね」
「大蛇を倒した天女さんに村の若者が恋したんだよ」
「美人さんだったんだ」
「とっても美しかったんだって」
「それでどうなったの?」
「天女さんが天に帰ろうとしたとき、天女の羽衣を隠しちゃったんだって」
「悪い奴だね」
「それほど愛していたんだ」
「天女さん帰れなかったの?」
「あんまり悲しげな目をするから、その若者は羽衣を天女さんに返したんだよ」
「そっか」
「蓮ちゃんだったらどうする?」
「ぼくは下着泥棒なんてしないよ」
「下着泥棒!」
お祖母ちゃんはお腹が痛くなるほど笑った。
「蓮はおもしろいね」
「そりゃ、ぼくだもん」
気がつくと山の急な坂道を走り続けていた。
「自動車じゃないと、こんな坂道のぼれっこないね」
ほとんど山道だから道はどんどん狭くなって、家の近くになると一車線しかないのだ。
「最近のEVカーはかしこいね」
お祖母ちゃんはハンドルから両手を離すと、自動車は自動運転に切り替わり、車庫入れをはじめた。
「充電は?」
「ボディのカバーが全部太陽光電池だから大丈夫よ。電気代も安くて済むしEVカーはエコね」
車庫入れが終わるとベルトが外れ、ドアが自動で開いた。
「クワガタ虫、採りに行ってくる!」
蓮のあたまは虫取りで一杯だ。
「頭が三角の蛇は毒蛇だから、近づいたらだめよ」
「はーい!」
蓮はマムシのことだと直ぐにわかった。
森につながる田んぼのあぜ道は要注意だ。
「これを持って行きなさい」
「はい」
蓮はマムシを払う長い棒を渡された。
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