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九.
台所に戻り、テーブルに並ぶ皿にラップをかけ冷蔵庫の隙間へとなんとか押し込むと、新しい包丁を窓から入る陽の光にかざしてみる。
地鉄に薄っすらと波型の模様が浮かび上がって見えた。
「もしかしてこれも、人生にはこの波のように浮き沈みがある、的な隠れ説教なんじゃないだろうな」
俺はまた苦笑しつつ、持参してきた包丁と共にそれを丁寧に箱へと収めてバッグにしまい、立ち上がった。
「汁なし担々麺、うちの一押しメニューにでもするか……。怪我の功名?お前のおかげでもあるか、ありがとう」
流し台に放り込まれ転がっている、高橋の店名がプリントされたカップ麺の空き容器を一瞥し、玄関へと歩み始めた俺の背を、工房から響いてくる心地良く力強い金属音が送り出していった。
終
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