終章

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終章

 目を覚ますと白い天井が見えた。  ……ああ、俺は……助かったのか。  看護士によると、トンネルを出た所で倒れていたのを、始発電車の運転手が気付いたらしい。  記憶にはないが、俺はいつの間にか、日の出とともに自力でトンネルを抜けたらしい。  俺は幸運だった。本当に幸運だった。  精密検査と警察の事情聴取を受けて、俺は退院した。  仕事も行かず俺は実家に帰って引き籠るようになった。周りは腫れ物に触るように俺を避けた。  それでいい。  俺はもう誰かと関わることすら煩わしくなっていた。  人の目から隠れるように、薄暗い部屋で毎日を過ごした。  三か月ほど経って、働けと親が言ってきた。  俺は断った。  だが親はしつこく社会復帰しろと言ってくる。  何度も断ったが、せめて風呂ぐらい入って身綺麗にしろ、と言ってきた。  人前に出れるような生活を家でもしろ、と。  俺は昼夜逆転の生活に慣れ腐って鏡すらずっと見ていなかった。  仕方なく俺は脱衣所へ向かい、久しぶりに自分を見た。  そこで自分に何が起こっていたかをやっと理解する。  始まりはまず視覚。明るい光を嫌い、夜に活動することが増える。  次に味覚。肉以外旨くなく、最近はあまり食事をしていなかった。  鏡の中の俺は目が細く、舌が割れ、しゅうしゅうとした呼気が漏れ出ていた。  内側から皮膚がひっくり返るように鱗が現れてから、自我がなくなるまで、あと── 「うっ、うわあああああっ‼︎」
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