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思い出
歩きながら先程見た夢を思い出す。
正直もうよく覚えていないが、記憶に残ってるのはあの懐かしい服だった。
どうしても欲しい、とねだるから買ったのに、久美子は一度も着た姿を俺に見せることなく嫁いだ。可愛さと上品さを兼ね備えたバーバリーのワンピース。溌剌として知的な彼女に、よく似合っていたことだろう。
「君はどうして」
久美子が消える前、彼女は色々おかしかった。追ってた行方不明事件に関係があったのだろうか。事故として終わったありきたりな事件。妙に村そのものに執着していた彼女が、突然俺に言ったあの台詞は、今でも俺の胸を締め付ける。
──ごめんね、裕行。私、結婚することにしたんだ。
ふわりと、見たことのない微笑みで彼女は告げた。あまりに幸せそうに別れを切り出すもんだから、俺は何も言えず呆然となった。好きだからこそ引き留めれなかった。俺にしておけ……そう言えたらと、後悔は未だに尽きない。
彼女の選んだ道に、俺は必要なかったのだ。
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