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異常な村人
彼女を訪ねて村を奥へと歩いていく。薄暗い村だ。手入れをあまりしないのか、木が無造作に歩道まで手を伸ばしていた。道路も掃除をしてないらしく、落ち葉が散乱していて、汚ならしかった。
畑もあるが荒れ放題だ。一軒一軒の家は立派だが、どの家も屋根より高い木に囲まれており、陰気な空気を放っている。家の横に設けられた深めの溝には、カニが忙しく出入りしていた。
彼女が嫁いだのは、この村の村長の息子であった。便りもなにもなかったので、その辺は彼女と仲の良かった上司に聞いた。呼び鈴がないので、玄関戸を叩く。対応したのは俺と歳がそう変わらない男だった。
「あんた、どっから来んさった」
異様な風体だった。
目は細く、声は呼気混じりで聞き取りにくい。この暑い中ハイネックの長袖を着ており、海の漢とも山の益荒男とも言えない、不健康そうな印象を受けた。
俺は事情を説明し彼女に会いたいと言ったが、体調を崩していて会えないと言う。
一目でいいからどうしても、と食い下がったが、すげなく却下された。
ならばと村について尋ねた。迷惑そうに顔に皺を刻ませ、やはり彼ははぐらかした。それより会話になっているのかもよく分からない。どうにも何かが決定的に食い違った返答が返ってくる。質問に質問で返し、しきりに家に上がれと勧めてくる。
気持ちが悪い。
特に絡みつくような目が野卑に思え、日焼けするのも構わず日差しの中にいた。
彼はその中に決して来なかった。
排他的な癖に、変に俺に執着する様子に、違和感と恐怖を覚えた。
「あんた、今夜どこに泊まるんじゃ?」
その男は聞いた。にやにやと、罠に掛かる獲物を待ちわびるかのような下卑た目だった。本能的に嫌だと思ったが、同時に俺はチャンスだと思った。
──寝入った隙に、久美子を捜せるかもしれない
だが頭のどこかでやめておけと声がする。
どこか狂気すら感じる雰囲気に、尋常ならざる悪意を感じ取り、俺はタクシーの運転手がやめておけとしきりに勧めた理由の一端を見た気がした。
「村人総出で歓迎しちゃるき。もうすぐ日ィも暮れよる……のう。すりゃあ、みィんな喜ぶき。のう。ええじゃろうが。早ああがれや」
語気は強めに、でも視線は地を這い独り言のように言う。
粘着質な“なにか”を感じながらも、
防衛本能に似た怖気を抱きながらも、
俺はその三和土に足を踏み入れた。
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