修行僧の手記

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修行僧の手記

「ここが己鳴(みなり)神社か」  事前に図書館で村の地図のコピーを手に入れておいた。かなり古い地図だが、神社の場所が変わることはめったにない。俺は鬱蒼(うっそう)とした山の入り口にあった鳥居をくぐった。  長い階段を俺は登る。  登っているのに、なぜか俺は地獄へと降りていってるかのような錯覚に囚われた。纏わり付くような湿気は香と何かが混ざったような臭いがし、とても神社への道のりに思えなかった。  実際、辿り着いた神社は木に囲まれてるせいか暗く、陰鬱(いんうつ)とした霧に覆われていた。  俺は誰も居ないのをいいことに裏へ回った。久美子の手帳には埋めた場所まで詳しく書いてあった。俺はそこを手で掘った。すると重箱が出てきた。急ぎ蓋を開け中に入っていた手記を取って読んだ。  それには、こう記されていた。  この井邑瀬(いむらせ)村は呪われている。  漂流者が持ち込んだ儀式──それは人を海の神に捧げ、富を得る人身御供であった。  私は見た。  村人(そまびと)たちが「神」と呼称する恐ろしい生き物に、奇怪な呪文を唱えながら私の弟子を供物としたのを。  そして更に私は見た。  もう一人の弟子が彼ら村人(そまびと)と同じ姿に変化(へんげ)する様を。  ずっと、おかしいと思っておったのだ。  昼間出歩くことを急に厭うようになった。禁忌である生臭ものを好んで食すようになった。  そしてある日突然、内側から皮膚がひっくり返るように鱗が現れた。本人も驚いていた。段々と喋れなくなり、口からはしゅうしゅうとした呼気が漏れるようになった。自我を失い、この村の住人の特徴をその身に帯びるまで、その時間はきっかり五分であった。  この現象は恐らくどこぞかの宗教の呪法と思われる。この地以外の、忘れ去られた古代に(えにし)を持つ忌まわしい“なにか”。我々知る“それ”とは一線を画して何かが決定的に違う気がする。幽鬼や妖怪とは明らかに異なる、もっと高次元な……神と呼ばれる中でも、もっと──  そこまで読んだ所で、肩を叩かれた。  くるりと振り返れば、いつの間にいたのか村人達に囲まれていて、俺は昏倒させられたのであった。
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