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再会
ここは、どこだろうか。
ずっと聞こえる声に起こされるようにして目を覚ました。頭が痛む。四方をぐるりと見れば、俺を取り囲むように村人が正座していた。どこかで見た場所……村人の発する言葉がはっきり聞こえた瞬間、俺はハッとした。
そ・やふ・ら・なあ・ずうえんび
それが呼び水となり唐突にあの悪夢を思い出した。慌てて確認したが、俺の目も手足もあった。
そして御堂の奥にぽっかりと広がる暗闇から、ズルズルと大きな何かを引き摺って音が近づいて来る。
逃げたかったが間に合わず、俺はヌッと現れたその生き物──蛇が。巨大な……胴回りは俺が両手で輪を描いたほどに太く、全長は五メートルをゆうに越え、上半身は人間という恐ろしい蛇と対面することになった。
「──ッ‼︎」
悲鳴も出せなかった。
その蛇は女であった。いや、そうだと思う、そうとしか言えない。長くざんばらな黒髪。耳まで裂けた口。そこから覗く長い牙。見開かれた目は俺を見て、不気味な弧を描いた。ゾッとした怖気が背を走る。
「あはぁ」
女は妖艶に嗤った。
凄絶に色を含み、壮絶に恐ろしく。
極上の獲物を前に舌舐めずりをする蛇身のうねりは、交尾を求めるかのように緩やかに絡み付いてきた。
「あっはははははははは」
身に纏った服はあまりに汚れ、色褪せて襤褸布のようだった。だが──あの特徴的なチェック柄のワンピースは──見間違えようがない!
「あははははは」
蛇はなおも笑っていた。哄笑は夜の闇に溶け、村人を操るように。彼女は彼らを従えていた。
気が付けば俺はグルリと囲まれていた。なんとかその場から逃れようと足掻く、足掻く。
「うわああああっ!」
蛇が鎌首をもたげ、その長い胴体を伸ばして俺に噛みつこうとした。間髪で避ける。避けた先で村人の一人がその牙の餌食となった。
あ、という暇もなく、俺がさっきまでいたその場所で血飛沫が上がり、村人達がザワリと揺れた。
陰惨な光景だった。女は待ち望んでたかのように村人の身体を恍惚として貪った。村人達も同じように嬉々と群がっていく。
蛇が微笑む。
唇の周りを紅く染めて笑む姿は、紅を引き、待ち合わせ場所に駆けてくる久美子に──ああ、本当に、とてもよく似ていた。
泣きたかった。
だが俺は過去を振り切るように、全力で山へと駆け出した。祝詞と太鼓が少しずつ遠ざかる。
そ・やふ・ら・なあ・ずうえんび
俺はとにかく、線路があるという山を目指して夜道をひた走った。
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