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「友人Sの家で"出た"話」
これは私が大学生の頃の話です。
私はよく友人Sの家に泊まっていました。
Sは一人暮らしで、Sの家では夜まで遊んだり、勉強をしたりします。
そして、普段なら夜は何も無く寝ます。
しかし、日差しの強い夏のある日のことでした。
Sは私にこう告げました。
「昨日の夜、出たんだよ」
私は一瞬何のことか分かりませんでした。
よくよく聞くと、
Sが前の晩、ベッドで寝ていたら、
足元から白い手がニョキッと出てきて、
Sの足を引っ張ったそうです。
Sはベッドの下に落ちたら帰って来れないと思い、
必死で抵抗したそうです。
すると、手はなおさら力を入れてSの足を引っ張ったそうです。
Sが言うには、手がSの足を引っ張る度に、ベッドがギシッギシッと軋んだそうです。
そして、Sの体が徐々にベッドの縁まで引っ張られて、
ベッドから落ちそうになったとき、
冷たい空気が体中に纏わり付いたそうです。
もうダメだ。
Sはそう思い、心の中で念仏を唱えたそうです。
すると、手は急に力が抜けて、床に引っ込んだそうです。
そう告げるSの顔は真っ青でした。
私はその少し前までSの家に泊まっていたので、
あのベッドで……と思い、Sの告げる様子が生々しく想像できました。
それは私にとってもとてつもない恐怖でした。
Sは続けて私にこう言いました。
「だから、しばらくうちには来ないほうがいいよ」
私は怖かったので、Sに言われるまでもなくそうするつもりでした。
私はそれにしてもSは平気なのだろうかとSの身を案じました。
そして、私がSの家に泊まりに行かなくなったある日、
私はとうとう見てしまいました。
Sがそれまでいなかった彼女と二人で歩いているのを。
私は最初はSの家には「出る」と聞いていたので、
彼女が気の毒に思えました。
しかし、よくよく考えてみると、
Sの身にそんなにすぐに彼女が出来るとは思えませんでした。
Sが「出た」と告げた日には、
Sの身にすでに彼女が出来ていたのかもしれません。
しかし、真相は未だに闇の中です。
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