「友人Sの家で"出た"話」

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「友人Sの家で"出た"話」

1acad6aa-e265-4414-85a8-c57bdc3d04a4 これは私が大学生の頃の話です。 私はよく友人Sの家に泊まっていました。 Sは一人暮らしで、Sの家では夜まで遊んだり、勉強をしたりします。 そして、普段なら夜は何も無く寝ます。 しかし、日差しの強い夏のある日のことでした。 Sは私にこう告げました。 「昨日の夜、出たんだよ」 私は一瞬何のことか分かりませんでした。 よくよく聞くと、 Sが前の晩、ベッドで寝ていたら、 足元から白い手がニョキッと出てきて、 Sの足を引っ張ったそうです。 Sはベッドの下に落ちたら帰って来れないと思い、 必死で抵抗したそうです。 すると、手はなおさら力を入れてSの足を引っ張ったそうです。 Sが言うには、手がSの足を引っ張る度に、ベッドがギシッギシッと軋んだそうです。 そして、Sの体が徐々にベッドの縁まで引っ張られて、 ベッドから落ちそうになったとき、 冷たい空気が体中に纏わり付いたそうです。 もうダメだ。 Sはそう思い、心の中で念仏を唱えたそうです。 すると、手は急に力が抜けて、床に引っ込んだそうです。 そう告げるSの顔は真っ青でした。 私はその少し前までSの家に泊まっていたので、 あのベッドで……と思い、Sの告げる様子が生々しく想像できました。 それは私にとってもとてつもない恐怖でした。 Sは続けて私にこう言いました。 「だから、しばらくうちには来ないほうがいいよ」 私は怖かったので、Sに言われるまでもなくそうするつもりでした。 私はそれにしてもSは平気なのだろうかとSの身を案じました。 そして、私がSの家に泊まりに行かなくなったある日、 私はとうとう見てしまいました。 Sがそれまでいなかった彼女と二人で歩いているのを。 私は最初はSの家には「出る」と聞いていたので、 彼女が気の毒に思えました。 しかし、よくよく考えてみると、 Sの身にそんなにすぐに彼女が出来るとは思えませんでした。 Sが「出た」と告げた日には、 Sの身にすでに彼女が出来ていたのかもしれません。 しかし、真相は未だに闇の中です。
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