ほしいですか?

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ほしいですか?

 もし、特別な能力を得られるとしたら、何を望むだろうか。全てを見通せる目? 人の気持ちがわかる力? どこでも好きな場所に瞬間移動できる力?  私は誰にも指さされず、異端として扱われることなく生きる力しか望まない。共感できる範囲の秀でた能力や体質ならば生きる糧になるかもしれない。しかし、それを超えるようなモノがあったとしても、生きるのはみんなと同じ世界だ。そんなモノあったところで何かの糧になるだろうか。幸せへの道しるべとなるだろうか。そうは思わない。  わかったような口をきいて、負け犬の遠吠えをするなと言われそうだが、残念。私にはそう言い切る権利がある。ほしくもない能力が備わっているからだ。  自分の持つ能力を端的に言えば「鼻がきく」になるだろう。ただし、実際のにおいを嗅ぎ分けられるというモノではないため、まったく役に立たない。もし、そうだったのならば麻薬捜査犬並みの力で伝説の捜査員になったり、唯一無二の調香師として世界的に活躍するなんてことも夢見たかもしれないが、現実は甘くない。  人の感情や記憶をニオイとして感じ取ることができる。言葉にすると、そんな感じ。は? どういうこと? 結局、何ができるの? うん。私だって同じことを思う。というか、おそらくこういうことじゃないか…と自分なりに解釈しているだけだ。  見た目、頭脳、身体能力、全てにおいて普通で目立つ要素のない自分が何かおかしいことに気づいたのは、幼稚園くらいだったと思う。家族以外と過ごす時間が増えて、色んなことが気になり始める時期でもある。そう。きっと母も最初は、私の異変を成長の証しと認識していたに違いない。やたらとにおいを気にして、「なんのにおい?」と執拗に聞く私をなだめたり、「何もにおわないよ。大丈夫だよ」と根拠はなくとも、安心させようとしていた。  でも、当時の私は気のせいだと言われても、確かに多くのニオイを感じていた。それも人がいるとより強くなる不可思議なニオイ。洗濯してお日様によく当たったTシャツのような清々しいニオイもあれば、濡れ雑巾のごとく思わず顔をしかめてしまうニオイ、そうしたいくつものものが混じり合い立っていられなくなることもあった。
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