立ち向かいますか?

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「河手さん…河手、さんっ…ぅぅ…かわ……ゆゆ、り……ゆりーっ!」  どさくさに紛れて呼び捨てにした。どういうつもりだ。そんなに叫んだら煙を吸ってしまうのに。灰色の煙に包まれた中で、まっすぐ自分に向かって駆け寄る姿を目にした気がした。  覚えているのは、そこまでだった。  目を覚ますと病室のベッドにいた。左右に視線を動かし、自分は病室で寝ているのだと認識できた。何となく入り口のほうを見ていると、大きなバッグを持った母が入ってくる。手を大きく左右に振ったつもりだったが、実際は指をわずかに動かしただけ。 「ゆり! 気がついたの! ちょっ、先生…」  呼び出しボタンを押した母に、頬をペチンと叩かれる。 「もうっ! この子は…こんな心配させてっ、もう!」 「ごめ、ん、ごめんなさい」  泣き声で怒りながら、布団の上に覆いかぶさってきた。怒られているのに、口元が緩んでしまう。母の全身から、あの甘く優しいミルクのようなニオイがしているからだ。  前とは違い、ケガをしているうえ煙を吸って喉も痛めているので、少しの間入院することになった。あの後、どうなったのか。愛梨も無事だったのか。柳君や原田さんは……聞きたいことは山積みだったが、検査などもあり何もわからないまま2日が過ぎた。母から嫌というほど説教されて言い出せなかったのと、私自身、聞くのが怖かったのもある。  体力が回復し医師の許可が出たらしく、聴取を取るために凉子さんが訪れた。 「ようやく会えた。はじめまして、伊藤凉子です」 「あ…河手、ゆりです」 「ゆりちゃんの担当になったから」 「はい。色々と、ありがとうございました」 「こちらこそ。じゃあ、始めようか」  凉子さんは聴取らしいことは取らず、あの後、どうなったのか大まかに教えてくれた。まずは柳君、愛梨ともに無事、放火の現行犯として石森昌が逮捕されたとのこと。 「ここに運ばれたとき、私と春香でゆりちゃんのご両親に謝罪と説明をしたけど……大丈夫だった?」 「ご迷惑かけて、すいませんでした。叱られましたけど、大丈夫です」 「そっか。そうだよね。ごめん。春香が証拠ごと消そうとするだろうって予想して消火器を用意してたし、私が張り込んでたから、大惨事にならず逮捕できたんだけど。ケガさせたことには変わらないもんね」 「気にしないでください。あの、爆発…があったような」 「うん。ガス管に引火したんだと思う。その辺は、これから石森を取り調べて明らかにしていく。あの女性…小田愛梨さんは警察病院に入院してる。ちょっと今は興奮というか錯乱状態だけど、ゆりちゃんへの傷害と撮影した動画で逮捕できるから」
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