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「すごい、偶然ですね」
「ふっふっふ。ねー。その旅行してた人、たまたま警察のサイバー班で働いてたのもあって、慌てず、即、通報できたと」
「え、それって?」
「でね、その人、元々は警察犬の訓練士になりたかったんだけど、パソコンやネットのスキルを買われてサイバー班から動かしてもらえなくて。そのストレス解消のため飼ってる犬を独自に訓練してるっていう変人で。訓練してた甲斐があったよねー」
「凉子さん…」
「準備が必要だって言ったでしょ? まあ、警察に勤めてたって旅行ぐらいはするし」
ニヤリと悪い笑みを浮かべる凉子さんは最高にカッコよく、チャーミングだ。手を尽くしてくれたから、美悠も原田さんも見つけ出せた。
「ありがとうございます」
「は? 何が?」
「凉子さんがいなかったら、2人を……いえ、2人だけじゃなく、他の方も見つけられなかったと思います」
「その言葉そのまんま返すよ。何より、ゆりちゃんと出会えてうれしい」
「え?」
「ふっふっふ。これからも、時々でいいから協力してね。孝也君はもう協力メンバーに入ってるし。ふっふっふ、何でも来いって感じ」
孝也君が凉子さんのことを「何でも使う」と言っていたのを思い出し、笑ってしまった。きっと、早朝に犬の散歩をしたサイバー班の人も協力メンバーに違いない。正々堂々と「利用したい!」宣言をされても、心底うれしそうで何かを隠そうとするニオイもしないからか、悪い気はしない。
「私にできることがあれば」
「やったねー! あ、じゃあ今日はこの辺で。また聴取にご協力いただくと思いますので、よろしくお願いします」
「ふふ、はい」
「河手さん、被害者に代わってお礼を言います。諦めないでくれて、ありがとう。それでは」
その「ありがとう」は、美悠と原田さんの声で聞こえた。私が返せるのは、やっぱり「ごめんなさい」だった。見つけたからいいじゃないか。そういう声もするけれど、同じ大きさで、あのとき追いかけていれば。もっと前から向き合っていれば違う未来もあったんじゃないか…問う声もする。きっと、これからも自問自答し続けるのだと思う。
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