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捕まった石森はもちろん、利用者であり加害者でもある小田愛梨への批判は凄まじく、ネットでは家族への誹謗中傷も多くなっている。あまりに過激な内容の書き込み、住所や電話番号などの個人情報漏洩については取り締まっているようだが、加害者であることと世間の注目をそらす意図もあってか、ほとんどが放置されていた。
凉子から【ゆりちゃんには概要しか話してない。詳しく知りたくなったら春香に聞いてと言ったから、よろしく】という事後報告なメッセージが届いた数日後、ゆりちゃんからメールがきた。予約との調整と少し時間を置いたほうがいいだろうと思い、ゴールデンウィーク明けの週末になってしまった。
正直、連絡がくるとは思っていなかったので、驚きつつ喜んでいた。それは事件とは関係なく、私から話したいことがあったから。宏太や夏美が仲よくしているというだけじゃなく、ゆりちゃんが気になっていた。多分、まだ力があり、生きることがただ苦しかった頃の自分と重ねているんだろう。
約束の15時ぴったりにチャイムが鳴った。ドアを開けると、白のパーカーにデニムパンツを着たゆりちゃんが立っている。少し髪が伸びてショートボブになったゆりちゃんは爽やかで、ぴったりだった。
「いらっしゃい。どうぞ」
「こんにちは。お邪魔します」
中に入ると、お礼ですと紙袋を渡された。有名なパティシエのケーキで、お上品なサイズで値段もさらにお上品な代物。
「これ、中々買えないやつでしょ。そんな気を使わないでよかったのに」
「母が買ったものなので」
「じゃあ、遠慮なく。おもたせで悪いけど、今、食べよっか」
「はい。実は……私も食べてみたかったです」
ソファーに座ってもらい、お茶といただいたケーキをテーブルにセットすると、ゆりちゃんが大きく呼吸をして「本当だ」と呟いた。
「ん? 本当って?」
「あ、何のニオイもしないと思って。ラベンダーの香りしか、しない」
「アロマ好きなの?」
「昔、ちょっと勉強というか、取り入れようかなと思ったことがありました。でも、そういうにおいじゃないとわかってからはあんまり…です」
「そっか。じゃあ、まずは食べよう」
ひとしきり、ケーキの美しさやおいしさにはしゃぎながら堪能した。目をつぶって、おいしーいとうれしそうに食べる姿は、まさに女子高生で「もっと食べな」と言いたくなる。
お茶を飲んで人心地ついたところで、話を始めることにした。
「さ、何でも聞いて。話せる範囲でできる限り話します」
「……はい。事件の、概要というか流れみたいなのは、記事を見たし、孝也君たちと予想してたのとそんなに違いなかったので」
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