寄り添いたい

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 愛梨はろくに食事を与えられない押し入れでの生活を続けるうちに痩せていった。元々の顔立ちは整っていたんだろう。顔の肉が落ちて、そのことに気づくと今度はチヤホヤし始める。新しい洋服を着せて「可愛い!」と誉めちぎり、外出先で誰かに誉められると満面の笑顔で喜んだ。 「見た目が可愛くなったから、可愛がったってこと?」 「少なくとも、愛梨の脳にはそう刻まれたでしょうね。可愛くて、言うことをきいて、みんなに誉められる人じゃないと、真っ暗で狭くて、カビくさい押し入れに閉じ込められる。短い期間だったとしても、その恐怖や絶望感は簡単には拭えない。彼女に最初の呪いをかけたのは両親だった」 「……私、ダメ押しの呪いをかけたんですね。永久に解けないって。解けたとしても救いなんかないって……わざわざ押し入れのことも告げて。本当に、嫌なヤツ」 「え?」 「その人が、一番、触れてほしくない、平静でいられなくなることをピンポイントで暴いて、理性を失わせて……そういうことが、できちゃう人間だから」  ゆりちゃんが力を使うことを拒否し続けていたのは、自分がつらいからというだけじゃなく、相手を傷つけてしまうことが怖いからなのだと気づいた。もし、あんな力がなかったら、人の気持ちがわかる優しい子として友達に囲まれた楽しい子供時代や青春を送れただろう。神様は残酷だ。 「そんなことない。何かから解放されるには、自分が囚われているものが何なのか認識することが第一歩なの。実際、愛梨は今、供述を始めてるし、呪いを解くため自分で立ち上がろうとしてる。ゆりちゃんが気づかせたんだよ」  本心だった。例えば、あの場に私や凉子が代わりに行って逮捕できたとしても、押し入れのことを引き出すのは不可能だ。友人や知人、石森も知らなかった。両親は虐待の意識がないのだから、話に出てくることはあり得ない。愛梨は自分がどこにいるのか、何に囚われているのか気づかず、一生、押し入れの中で膝を抱えているところだった。それでもゆりちゃんは唇を固く閉じ、俯いている。 「他に聞きたいことは?」 「……いえ、大丈夫です」 「それじゃあ、私からも話したいことがあるの。いい?」 「はい、もちろん」 「と、その前に、お茶入れ替えようか」  迷っていたけれど、今の言葉を聞いて話そうと決めた。
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