ほしいですか?

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 いかにも心配している風に目を細めながら優しく話しかけてきた叔母さんからは、甘いニオイと同時に何かが腐ったようなすえたニオイもして、深く吸い込むと眩暈を起こしそう。なぜかはわからない。このとき「あ、嘘をついてるんだな」と確信した。いきなり倒れた私を心配していたのも本当だろうけれど、それと同じくらい、もしかしたらそれ以上に強い好奇心。それぞれの感情が発するニオイが混じっている。 「はぁ…」 「大丈夫? まだ寝てたほうがいいかな? 朝ごはんちゃんと食べてるの?」  叔母さんが言葉を続けるたび、すえたニオイが強くなっていく。その後のことはあまり覚えてないが、翌日の朝食から食べきれないくらい豪華なメニューに変わっていた。  前置きが長くなりすぎたけれど、私、河手ゆりにはそんな自他ともに迷惑な能力がある。  このお葬式の後、「自分には、普通はないはずのニオイがわかる」と確信したが、納得したわけではない。むしろ、そんなバカなことあるわけない。そうだ。鼻の病気なのかもしれないと考えた。  学校で鼻血を出したから担任の先生に耳鼻科に行ったほうがいいと言われたと嘘をついて、ひとりで診てもらったこともある。だけど、しょせんは子供だ。自分の状況をうまく説明できるはずなく、ただ「ほかの人はしないっていうけど、いろんなニオイがする」と言っただけ。  お医者さんは形ばかりの検査をすると、「うん、どこも悪くないし大丈夫だよ。学校が忙しいのかな? たくさん食べてぐっすり眠ればきっとよくなるからね」張り付いた笑顔で診断をくだす。病院の消毒液に混じって、錆びた鉄のような、何とも不快になるニオイが充満している。ほんのわずかも私の言うことを信じておらず、相手にしていないことだけはわかった。病院に行って、逆に「これは気持ちから発しているもの」だとわかってしまった。  一体、どういうことなんだろうか。こんなことが起きているのは私だけなのかが気になり、図書館に通って難しい本と格闘する日々が続いた。普段、マンガかミステリー小説くらいしか読まないのに、においに関する専門書をスラスラ読めるはずもない。まずわからない漢字ばかりだし、専門用語に泣きたくなる。勉強は嫌だけど、親や先生、お医者さんにも聞けないのならば自分で調べるしか方法はない。
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