クズと歯車

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歌災は平気で嘘をつく。 それが最大の問題だ。 「歌災くーん!」 「あれ、マリちゃんじゃん。 俺の教室まで来るの珍しいね?」 教室にやってきたのは、別のクラスのマリという少女だ。 自分のことを着飾るように嘘をつく歌災は、周りからは超高スペックだと思われている。 「だって歌災くんに用があったんだもーん。 あのね、他校の友達に歌災くんのことを話したら、一度でいいから会ってみたいって言われてさ! よかったら、歌災くんを紹介させてくれないかなって」 「え、いいよ! こんな俺でよければ!」 「“こんな俺”だなんて言わないでー。 歌災くんは完璧なんだもん! たくさん自慢したくなっちゃうよ。 じゃあ、予定がない日があったら教えてね」 嘘をつき、身分を偽る。 それでも人におだてられれば、悪い気はしない。 寧ろ楽しくて仕方がなかった。 「おっけー。 予定が空いたら、真っ先にマリちゃんのところへ向かうから!」 「うん! よろしくー」 歌災はとにかく注目されたい。 自分の存在価値を、いつも誰かに認めてもらいたいと思っていた。 マリと別れると、今度は他のクラスの男子がやってくる。 「お、歌災。 丁度よかった。 今日バスケ部のエースが風邪を引いて休みでさー。 エースがいないと盛り上がらねぇから、歌災が助っ人として来てくんねぇ?」 成績優秀、スポーツ万能。 簡単にバレそうなものだが、歌災は巧みに嘘をつき周りに気付かれず日々を過ごしている。 もちろん、能力的にはその逆。  バスケなんて人並み程度にしかできない。 ―――文化部だったら助っ人として行ってもよかったけど、流石にバリバリスポーツのバスケはなぁ・・・。 「あー、悪い! 今日の放課後、既に予定があって」 できないものはできない。 化けの皮が剥がれそうなことからは、徹底的に距離を置く。 それが歌災の処世術だった。 「え、マジで? なら仕方ねぇかぁ」 「俺じゃなくてよければ、代わりに助っ人へ行ってくれる人を探しておくよ」 距離を置きつつ恩を売る。 これで次に代わりが必要になった時は、そちらへ頼むことだろう。 「助かる! サンキュ!」 ―――放課後は予定なかったけど、強引に入れちまった。 ―――後でマリちゃんのところへ行って、友達と会うの今日でいいか聞いてみないとな。 歌災は顔が広く、助っ人を探すのもさほど苦ではなかった。 「おーい、浜ちゃーん。 浜ちゃんって、バスケ得意だったよな? 今助っ人を探しているみたいなんだ、行ってやってくれない?」 ―――友達が周りにいてくれるなら、いくらだって嘘をついてやるさ。 歌災にも、このように嘘で自分を固めるようになったのには理由がある。  それは、小学校の低学年の時だった。 その頃の歌災は何事にも努力をしていた。 勉強を人一倍頑張り、運動も人一倍頑張る。 しかしその努力は報われず、結果に繋がらなかった。 「アンタ、またこんなに酷い点数を取ったの!? 一学期の成績も悪かったし! 全く、どうしてこのような子に育っちゃったのかしら・・・」 唯一頑張りを見てくれそうな親からもそう言われ、絶望した。 自分は努力をしても何もできないのだと痛感した。 だが次のテストの時に、歌災の心にある変化が起きたのだ。  以前から好きだった女子に、話しかけられた時のことだった。 「ねぇ歌災くん! 見て! 国語のテスト、98点だったの!」 「へぇ、凄いじゃん!」 「歌災くんはどうだった?」 「え、僕? ・・・僕は、その・・・。 89点、だったよ」 「惜しい! もうすぐで90点だったね!」 本当は19点だったくせに、89点だと嘘をついてしまった。 自分が勉強のできないカッコ悪い人間だと思われたくないため、嘘をついたのだ。 それでも好きだった女子に褒められると悪い気分ではなかった。 それから歌災は自然と嘘をつくようになった。 運動ができないことを知られないように、わざとやる気がないと装うようにする。  きちんとやればできるのだ、と。 更に、真面目にやらないのがカッコ良いと思っていたということもある。 それから次第に歌災は努力をしなくなった。 努力しても結果は出ない。  それなら嘘をついた方が、余程手っ取り早いと思ってしまったのだ。 さて現在に戻り、歌災は少々ピンチを迎えていた。 数学の課題をやっていないことに気付いたのだ。 ―――どうしよう、みんなには頭のいいように見られているから、今更課題を見せてって頼むと驚かれるよな・・・。 仕方なく、あまり関わったことのないクラスメイトのもとへ歩く。 話しすらしたことのない相手で、彼は机につき黙々と勉強をしていた。 「ねぇ君。 俺に、数学の課題を見せてくれない?」 更に気弱そうな相手。 歌災からしたら、ランクは下だが利用するには丁度いい。 「え、でも、歌災くんは頭がいいから必要ないんじゃ・・・」 「確かにね? 俺は見せてもらわなくても自分で解けるよ。 でも俺、最近ずっと引っ張りだこで課題をやる時間すらもないんだ。 だから回答をそのまま写したい。 ねぇ、見せてくれない?」 「でも・・・」 「君、陰でどんなことを言われているのか知ってる? がり勉オタクで友達になりたくない男子ナンバーワン」 「ッ・・・」 「可哀想に。 俺でよければ、君の友達になってあげるよ」 もちろん、友達になんてなる気はない。 だが近付いてくれば、話くらいはするだろう。 利用価値があるなら程々に相手する。 「本当・・・?」 「あぁ。 だから、友達として俺に課題を見せてくれるよね?」 「も、もちろん・・・!」 ―――よーし、課題の答案をゲット。 ―――まぁ、がり勉オタクで友達になりたくない男子ナンバーワンだなんて呼ばれているの、聞いたことがないけどね。 自分が得をするなら、人を騙しても構わない。 歌災はそう思っていた。 ―――たまに嘘がバレるんじゃないかって、冷や冷やすることもあるけど・・・。 ―――俺はよく口が回るから、嘘を弁解するのも得意なんだよね。
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