長女・骨の髄まで腐に染まった腐れ女

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長女・骨の髄まで腐に染まった腐れ女

 もう既に、紙媒体での作業が出来なくなっている長女。  LINEで来たのをコピペするだけの母(笑) ――― 悪魔を魔法使いと呼んだ少女と馬車の魔法と一口のジャム カタン、と夜の空気に音が響く。 大きな家の集まる場所の隅、周りに比べれば小さいが、十分な広さを持つ家の二階にあるとある部屋。そこのベランダの手すりに降り立てば、その音を聞いた彼女が窓から顔を覗かせる。 「魔法使いさん!来てくださったのね!」 『魔法使い』と呼ばれた事に苦笑いしつつ、彼女を見遣る。少し顔色が悪い。 暦は夏でも、もうすぐ秋に差しかかる季節。月が頭の真上で淡い光を放っているこの時間。少し肌寒い位の、過ごしやすい気温ではあるが、彼女の着ていた服は真っ白なネグリジェ。露出が多く外に出てくる服では無い。ベランダに出ようとした彼女を手で制し、自ら部屋の中へ舞い込む。 魔法を少しだけ使い、外を歩き飛び回っていた靴を綺麗に、飛ぶ時に必要なマントを消した。 それを見ていた彼女は目を子どものようにキラキラさせ、両手を胸の前で組んだ。まるで神か天使を見た時のようだと頭の片隅で思う。 「流石ね!やっぱり魔法を見れるのはとても嬉しいわ!」 ありがとう、と微笑みかけてから彼女の部屋の椅子を借りる。彼女の部屋を訪れるのは最近の日課である。 始まりは暇つぶしと、ほんの少しの親切心だった。 数ヶ月前、その家の庭で蹲って咳をしていたから、ほんの少し様子を見た。ただ暇だったから。 暫くしてから母親と思しき女が家から出てきた。なんだ、助けがあるのか。面白くないと思いながらその場から離れようとした。 でもなんだか名残惜しく思い、暫くその場に留まった。いくつか言葉を交わしたらしいその母親らしき女は彼女を放って家へ帰っていった。 助けに行く、なんて甘い事は無い。そう思っていたのに。 気がついたら彼女のそばに立ち、家へ入る直前の女が一時間のうちに三回転けるよう魔法をかける。期限は…三日、と言った所か。 自分でも理解できない行動ではあったが、何故か仕返しが出来た、とどこか満足感さえ覚えた。 自分の感情に首を傾げつつ足元を見れば未だ蹲る彼女。 どうしたものか。 普段の自分ならここで置いていっただろう。特になんの疑問もなく、飛び去っていただろう。 しかしそれも出来ず、良くない事と分かりながら彼女の記憶に入って、彼女の部屋らしき場所を探す。 少しの良心でそれ以外の記憶を見なかった自分を褒めたい。 部屋の検討だけつけて、彼女をお姫様のように抱えて飛び立つ。その時の驚いた顔は一生忘れる事はないだろう。 ベランダに下ろせば目をぱちくりとして開いた口の締め方を忘れたようだった。 なんだかそれだけでおかしくて、久しぶりに声を上げて笑った。 『えっ…と、魔法使いさん…?』 違うんだけどな。 否定するのも可哀想なほど驚いていたから、『ゆっくりおやすみ』と頭を撫でてやってから空へ向かってマントを羽ばたかせた。 先程よりも一層目を見開いて慌てたように声をかける。 『あの!また、来てちょうだい!お礼にお菓子を用意しておくわ!』 慌てて口をついた言葉がそれか。 特に二度目があるとも思わなかったので、振り返りざまに少しだけ手を振ってそれを返事とする。 その日の朝は清々しく、過去一気持ちの良い目覚めだった。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ふと手を伸ばした先のクッキーはいつもとは違いチョコの様な黒い粒の入ったものだった。 伸ばしきったてを少しだけ彷徨わせて、椅子の肘掛に戻す。 「あ…チョコ、お嫌いでした?」 後ろから声をかけられて口を歪める。 チョコは個人的に苦手なんだ。 そう伝えれば「そうだったの、いつものやつを持ってきますね」とクッキーを手に部屋を出ていった。 あ、気を遣わせてしまった。 そう思っても遅いのは目に見えている。大丈夫、と伝えてみてもそれはもう届かなくて、ちょっと申し訳ない気持ちを噛み締める。 彼女に初めてあった夜から数日もしないうちにここへ来るとは思いもしなかった。今や菓子を共に世間の噂話や国外の話を彼女とする、お茶会仲間まで発展してしまっている。 彼女は義母と義姉にいじめられているらしく、自分との茶会か楽しみで仕方ないらしい。 あの時の自分が見れば失笑ものだ。 何故ここまで仲良くなったかは分からない。 そもそも、今彼女と自分の仲がいいのかも理解はしていない。ただ彼女はそう言ったのだ。 いつだか小指を立ててこちらへ差し出し、「仲良しの誓いですよ」と呟いた彼女。互いの名前も知らないのに。 コンコン、と軽快なノックとともに彼女がいつものバタークッキーを持ってくる。手作りだそうで、とても美味い。 それ片手にいつものように話を続ける。 今日の話は、その昔街の隅に住んでいた美女の話だ。 どこぞの獣と駆け落ちしたはなしである。 笑いながら話を聞いていた彼女が、ふと思い出したかのように声を上げたのはもうそろそろお暇するか、と考えていた時の事だった。 「魔法使いさん、チョコ以外に苦手なものとかってありますか?」 苦手な物?と聞き返すと、「はい、今度また別のお菓子に挑戦しようと思って」と満面の笑みで返って来る。 別にいいのに、と思いつつも彼女の作る菓子はとても美味であり、また違うものを食べるのもありかもしれない。 そんな考えに至り、過去に苦手だと感じた食べ物を捻り出す。 果物は全般ダメだった気がする、あぁ、苺、あれは美味かった。果物の中で唯一食べれるやつだ。 あとは甘い物は苦手だ。チョコもそうだが、甘くて食べれた物でない。 それから魚介もダメだな。生臭い。あれを食べる奴の気が知れん。 それと酒だな。臭いしまずいし吐き気がする。 幾つも羅列していくその言葉を彼女はメモ帳片手に真剣に聞いていた。 話している途中、一息つく度に頷く彼女のなんと愛らしい事か。 「それじゃあ、今言ったもの以外でなにか作るわ!苺はもうすぐ旬だから、美味しいジャムでも作ろうかしら」 じゃむ、とはなんだ。上手いのか?と問えば「食べた事ないの?」と驚かれる。 別に悪い事ではなかろう。少し拗ねた様な事を言えば彼女はふふ、と笑う。 「そうね!私が美味しいの食べさせてあげるから、楽しみにしていて!」 そう言われれば頷くしか出来ないのが自分である。 彼女の声はとても意思が強く、いつも逆らえない何かがある様に思う。それは彼女の才能である。仕方ない。 楽しみしているな、頭を撫でてやれば彼女の周りに花が飛ぶ。 それから幾つか話をしてから外を見遣れば、月の反対側が微かに明るくオレンジに輝いていた。 そろそろ帰る。その言葉に彼女は少し寂しそうに笑った。 「また来てちょうだいね!沢山お話聞きたいわ、あとは魔法も沢山見たい!」 まるで何かを繋ぎ止めようと必死な様子の彼女に、内心ニヤリとする。 もっと自分を必要として。 もっと欲して。 もっと欲を出して。 そして大人しく俺に喰われろ。 久しく見なかった悪魔らしい自分。 しかしこのままではじゃむを食う前に彼女を食べてしまいそうだ。 何だかそれが嫌で、暫くここには来るまいと勝手に決意する。 次来た時には、ジャムを食って、彼女を喰って。 「魔法使いさん!次はまたクッキーを用意しておくわ!チョコの入っていないやつね」 その声にふと現実に戻される。あぁ、彼女のその声で言われたら。 また、来てしまいそうで。 クッキーの礼に、と彼女に何かあれば助けてしまいそうで。 生まれてこの方悪魔として生きてきた自分の、見たことの無い一面にまた驚いて恐怖せねばならぬだろう。 それでも、彼女のクッキーが食べれるなら。 彼女にありがとうと言われるなら。 彼女と沢山の話ができるなら。 それもいいかもな、とらしくない事を思ってまた驚きを感じる。 「じゃあ約束ね!来週、また来てほしいわ!」 夜であるのに終始感情豊かな彼女の声に惹かれ、頷いてまた小指を交わす。彼女に教わったことの一つ。「仲良しの誓い」だ。 自分の感情と彼女の表情をを見比べて、宛ら人間の様だと苦笑いを零した。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ それじゃあ、と一言だけで終わったその日の誓いを、辞めておけば良かったと後悔するまであと七日。 こんな小娘の恋路を助けてしまった事を後悔するまてまあと一ヶ月。 もう二度と地上へ降りないと心に決めるまであと二ヶ月。 亡くなった彼女と再開し、自分が悪魔であり、魔法使いではないと、正直に話す時まで、あと──。 作者から一言。 オチが迷子で申し訳ない。 母の総評  長くてすいません(笑)  これ、母が手打ちしたら誤字だらけになるわ(笑)  こやつには厳しい目で(笑)いいんじゃないっすかね。
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