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博士はかつて、国立大学に通うしがない工学部生だった。
幼少期より〈自力でロボットを作る〉という大志を抱いていた彼は、授業の合間や放課後を使って実際に独力で知能系人型ロボットを開発し、周囲の人間を驚愕させた。――ちなみに、この記念すべき第一体目の自作ロボットが、助手として約三十年もの間、博士の研究を支えて続けている〈アンナ〉であった。
ともかく、純粋な趣味として製作に取り組んできた彼にとって、それは幼い頃からの夢が叶い、最上の喜びを得た出来事に違いなかった。
しかし、一学部生の大業を知った大学が、彼を放っておく訳がない。工学部――とりわけ機械理工学専攻の教員たちは、彼に飛び級制度の利用を勧め、半ば奪い合うようにして自身の研究室へと勧誘した。そして、渋る彼を説得し、強引にその発明品――つまりアンナを、国際的なロボットコンテストにエントリーさせたのだった。
エントリー用に再考案されたロボットの名称は〈H・B〉。
〝Higher Brain(より高い知能)〟の略称である。計算力、記憶力、コミュニケーション力、その他あらゆる人的機能において、H・Bはその名の通り高い知能を有していた。
基本遺伝子をもとに、人間の神経系システムを限りなく忠実に再現したH・B。データが存在し得る限り、基礎的機能のコピーは半永久的に可能だが、個々を取り巻く文化環境の影響により、その後は個体ごとに異なった成長を見せる。つまり彼らはその先天的な知能により、自らの知能を自動的に、かつ際限なく発達させてゆくのだ。ここまで〈人間らしい〉ロボットを作り上げたのは、世界的に見ても彼が初めてであった。
他に類を見ない高度な発明品は、言うまでもなくコンテストで圧勝を収めた。極めて多面的な活躍が期待されるH・Bが世界に普及するまで、そう長くは掛からなかった。ホームヘルパーから医療サービス、さらには国防システムまで、多岐にわたる役割を卒なくこなす彼らは、先進、中進、後進を問わない地球規模で、今後も永遠無窮に求められる存在となり得たのだ。
こうして、何もかもが順風満帆に進んでゆく
――はずだった。
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