神様の瞳色

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「じゃ、ゆっくりしていってね。……私はリビングにいるから、お友達が帰る時は声を掛けるのよ」 そう言うと、お母さんは私が返事をするより先に部屋を出て、さっさと戸を閉めてしまった。軽やかな足音が段々と遠ざかってゆく。その音が完全に聞こえなくなってから、私は扉から視線を外した。 「ねえ、さっきのって、冗談だよね?」 私の質問に、何が? と言いたげな表情が応える。私はうっかり溜め息が漏れないよう細心の注意を払いながら口を開いた。 「まさか、本当に〈国語の神様〉っていう名前なの?」 「そうだよ」 何食わぬ顔で〈神様〉が頷く。 「そんな嘘ついたって仕方ないでしょ」 「いや、仕方ないっていうか……」 私は、思わず頭を抱えたい衝動に駆られた。訊きたいことは山ほどある。けれど、一体どこから切り出したものか。しばらく唸った挙句、私は一番大事なことを尋ねることにした。 「どうして私の部屋にいるの?」 「国語イヤイヤオーラが出てたから。国語の神様として放っておけなくてさ。ちょっとでも国語の楽しさが分かれば、勉強も今ほど苦じゃなくなるでしょ?」 「いや、そうじゃなくて」 私はもどかしくなって、つい相手の声を遮るように否定した。 「どうやって部屋に入って来たのかってこと。玄関には鍵がかかってたでしょ? 第一、お母さんが気付かないのはおかしいし……。ここの窓も、私がずっと見てたから入って来られるわけじゃない」 一体、どこから入って来たの? その人は、すぐには答えなかった。
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