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「それを知って、どうするの」
「どうも何も、それが分からなきゃ話が進まないでしょ。まずは一番大事な質問に答えてもらわないと」
神様は一瞬意外そうな顔をしたが、すぐに目を伏せて首を横に振った。
「大切なことと、そうじゃないことを一緒くたにしちゃいけないよ。どこかの王子さまも、そう言ってる」
言い返そうとしたが、ついに言葉が出てこなくなった。
どこかの王子さま。――『星の王子さま』に出てくる小さな王子さまのことだ。言われてみれば、この人はあの王子さまに少し似ている。どこからともなく現れて、訳わからないことを言うけれど、心の底からは憎めない。
でも、王子さまとは言えなさそうだ。男のような気もするし、女のような気もするし、どちらでもないような気さえする。年齢も不詳。若いような気もするし、そんなに若くないようにも見える。
だからだろうか。頭ではそんなことあるわけないと分かっていながらも、どこかで〈神様〉という呼称が妙にしっくりくると感じている自分がいた。
「じゃあ、他のこと訊いてもいい?」
私はきちんと椅子に座り直して、身体ごと神様の方を向いた。神様は麦茶のグラスを傾けながら、「どうぞ」と言った。気付けば神様は、私のベッドの上に胡坐をかいて座っている。人のベッドの上で我が家さながらにくつろげるのは、やはり神様だからなのだろうか。私は至って平静を装い、じゃあ、と言って机の上の参考書を指さした。
「なんで国語の神様なの?」
「そりゃ、国語が好きだからだよ」間髪入れずに神様が答える。
「現代文だけじゃなくて、古文も好きだよ。日本の言葉だからね」
「変わってるね」本心から、私はそう言った。
「私は国語ってどうしても好きになれない。英語ならまだしも……。日本も英語にすればいいのに」
「知ってる」桃を頬張りながら神様が笑う。
「だから来たんだよ」
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