神様の瞳色

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「難しいね」 正直に、私は言った。決して難しい言葉を使っているわけではないのに、いまいち捉えどころがない。ひどく単純な話なようにも、ひどく複雑な話のようにも感じる。一瞬分かったような気がしても、少し油断しただけで指の間からスルスルとこぼれ落ちてしまう。 自分がどんな表情をしているのか、自分では分からないが、神様は私の顔を見ておかしそうに小さく笑った。 「つまりね、簡単に言うと」 神様が屈んで、机の陰に姿を隠す。次に現れたときには、手に数枚のプリントを掴んでいた。 「私の思い浮かべる「国語」と、君の思い浮かべる「国語」は、同じはずなのに違うってこと」 手にしたプリントを、神様はノートの上にそっと置いた。プリントの端に印字された〈国語〉の文字が、風に当たってヒラヒラとはためく。窓から吹き込む風なのか、扇風機の送る風なのか分からない。真っ直ぐこちらに向けられた瞳から、私は目を逸らせずにいた。 扇風機の低い音と、時折紙のめくれる乾いた音。心地よい沈黙が室内を満たす。その沈黙を破るように、神様はだしぬけに息を吐いた。 「辞書にも載ってない意味を見付けられたら、君も絶対好きになれると思う」 「何を?」 私が訊く。訊きながら、その答えはとっくに分かっていた。 そんな私の胸中を察したのか、それでも神様は柔らかく笑って答えた。 「〈国語〉をさ」
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