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チリン、という微かな音で我に返る。
カーテン越しに、窓外の青空を見ていた。
窓から吹き込む風が、レースのカーテンを揺らし、私の顔のそばを通り抜け、コードの繋がっていない扇風機の羽を回す。
机の上に広げられた参考書の右端に、〈小説〉の太字。〈大問1(1)〉で止まっているノート。床には、プリントが数枚落ちている。
いつの間に、眠っていたのだろうか。いや、眠っていなかったかもしれない。何時間も熟睡していたような、はたまた二三分ボーッとしていただけのようにも思える。神様はどこにいったんだろう。トイレにでも行ったかな。それとも、あるいは――。
背後で、カランと氷の崩れる音がした。ハッとして、背後を振り向きかける。確かめなければ。
が、思い直して、やめた。グラスが二個あるかどうかを確かめるのは、もう少し後でいい。何でもかんでも、ハッキリ答えを定める必要はない。神様の言わんとしていたことが、なんとなくだけれど分かったような気がした。
カーテンの裾から覗く蒼空をしばらく眺めた後、視線を参考書に落とした。
大問1の(1)。
――傍線①に込められた主人公の心情を、五字以内で書け。
上段の本文に目を通す。〈青〉の一文字の隣に黒い太線が引かれていた。この〈青〉という、本来ならば単なる色彩を表す言葉が、主人公のどのような気持ちを秘めているのか。
結局、この問題の答えはよく分からない。神様の言っていたことを踏まえると、この〈青〉は、主人公の青だ。主人公は、青いハンカチで涙を拭いた。だが、その涙の裏にある心情について、文中には書かれていない。もし書かれていたとしても、それはきっと五文字なんかじゃ表せない心情のはずだ。
少なくとも今の私に分かるのは、〈青〉と聞いて自分の思い浮かべる色が、この話に出てくるハンカチの淡い水色でも、カーテンの裾から覗くビビットなブルーでもない、もっと別の青だということだ。それは、一見するとただの黒だけれど、よくよく見るとその黒に隠れるようにして、水よりもガラスよりも澄んだ光を放っている湖の底のように深い青。
調べれば、この色にも名前がついているのだろうか。別にそれでも構わない。人によって、感じ方によって、同じことにも複数の言葉があてられているのだから。
だからもし、私がこの色に名前をつけるとしたら、それは、きっとこんな感じだろう――。
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