彼の生きていた証

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「僕はね、自殺をしようとした事があったんだ。 2度もだよ。今考えると馬鹿馬鹿しいけど・・・」 彼はこう続けて話し始めた。 自殺・・・彼が自殺なんてしようとしたのに 私はちょっと驚いた。 私は病気や事故の死期は分かったが、自殺をする人の死期だけは分からなかった。 影の正体はそれだったんだ、と納得した。 「1度目は中学生の時、僕はある日突然いじめられたんだ。凄く酷いって訳じゃなかったけど・・・ 皆から無視された。 机の上に小さく死ねって書かれたり、 靴箱にゴミを入れられたり、 体操服を隠されたりした。 それを家族の誰にも言えなかった。 言えるはずなかった。 母はその時、再婚して再婚相手との子供が産まれたばっかりだったんだ。」 彼は悲しそうに話していた。 「僕の居場所はどこにも無かった。 僕はその時、どうでもいい存在なんだって思った。 僕が居なくなればいいんだって。 だから、僕は手首を切った。 痛かった。でも、その時ハッとしたんだ。 なんでこんなことをしてるんだろうって。 切れたところが良かったのか悪かったのか、 僕は死ねなかった。 僕は、運が良かったのかもしれない。」 彼の手首には、その傷跡が今でも残っていた。 会った時から気づいていたが 私はあまり気にしていなかった。 居場所がないっていう彼の気持ちがよく分かった。 私は凄く悲しくなった。
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