ロワイヨム王国入国

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ロワイヨム王国入国

 地平線が見える平原に到着すると、ゼブラバクバクのネンネはまっすぐな道なので走ってもいいかと何度もエンディーに伺っていた。 「走ってもいいけど、ドシドシうるさく走るなフラ。みんな車内で休んでいるフラ」 「オラの走りはうるさくないから大丈夫やネン」  そう言うと、地面に鼻を押し付けて青白い息を鼻から吐き足元を充満させた。  すると彼は青白い霧の上に立つように少しだけ宙に浮いたのだ。  エンディーはそれを見て驚いた顔をする。  こんな巨体が翼もなく、浮遊魔法も使わずに浮くことができるなんて凄すぎると思ったらしい。 「青白い霧の中ではオラの想いのままなんやネン」  足が軽くなったように動かすネンネはリニアモーターカーのような勢いで加速し始めた。  速い、速い、速い、もの凄く速いぞ。  車内にいた俺たちは車の加速に驚き、窓外の変わりゆく景色に驚愕した。 「エンディー、いったいどうしたんだ?」  窓を開けて大声で話し掛ける。  彼の耳なら、こちらの声は聞こえるはずだ。 「ネンネが走りたいと言うんで許可したら、とんでもない速さで走り出したフラ」  あまりにも速いスピードに外のエンディーは飛ばされそうになっていた。  必死でネンネの体から離れないように爪を立ててしがみついているようだが、旗のように靡いていて非常に辛そう。  そこまでするくらいなら、空を飛べばいいのにと思ってしまう。 「オラの力はまだまだこんなもんじゃないネン。マモルちゃんが成長すればオラももっと強くなるネン」  こちらを向いて話し掛けてくるネンネは少し危なっかしかった。  更にどんどん加速していく。  まるで自分の能力を俺にアピールするかのように。 「ネンネ、お前の力は十分に認めてるから、前を向いて安全に走ってくれ」 「マモルちゃん、それも心配しなくていいネン。オラたちが青白い霧の中で移動している時って、ぶつかりそうな障害物を霧のようにすり抜けて移動しているネン」 「え、そんな事までできるのか?」 「そうやネン。魔女が黒い霧に隠れて移動したり、姿が見えなかったりするのも同じやネン」  なるほど、霧の魔法を使うとそんな変わった効果が付与されているのか。  だから魔女の存在も見つけにくい訳だ。 「そろそろ、ロワイヨム王国の国境【イーストイミグレ】に到着するフラ。ネンネはスピードを落としてフラ」 「エンディー兄貴、了解やネン!」  暴走機関車がスピードを落とすように、ゆっくりゆっくり減速を始めた。  青白い霧をまき散らす様子が、機関車のように見えて可愛らしい。    国境の街までは馬車が走った状態で二日くらいの距離と聞いていたが、ゼブラバクバクのネンネなら三時間くらいで到着してしまった。  おそらく車よりも速く飛行機より遅い程度のスピードだったのだろう。  国境の街【イーストイミグレ】はイエショウ共和国とロワイヨム王国の境界。  首都イエショウから見ると、ここは辺境の街でズーボボと変わらないくらいの規模の田舎街だが、さすがに物や人が溢れ返っている。  貿易が盛んな街だけあって、いろいろな物が流通しているのだろう。    そこを俺たち一行は通り過ぎ、国境で兵士に声を掛けられた。 「瀬薄マモル様、お待ちしておりました。バガラー様より享け回っております。鉄壁のガードナー様に一太刀を加えた英雄の出発を見守れと」 「それは大袈裟な。手術でガードナーの腹を切っただけなのに」 「シュジュツ? 分かりませんが、彼の腹を切れるなんて、この国にはそうはいませんよ」  子ウサギ獣王たちは話を盛って命を出しているようだが、これで国境を楽に通過できるのなら問題はないだろう。  その後も兵士は寺須やベイリービーズの顔も確認して、次世代の白衣の天使に栄光をと彼女たちを敬服していた。  看護師を白衣の天使だと言っているのに、本当の天使扱いされているのが滑稽だった。 ◆◆◆◆◆◆◆  では、いよいよロワイヨム王国に入国!  通行証と獣神バガラーの親書を持って入国した俺たちは、こちらの国でも丁重なおもてなしで受け入れてもらえた。 「なんだ、ここは?」  こちらも同じイーストイミグレのはずなのに、まったく世界が違って見える。  頭の中でシンフォニエッタのファンファーレが鳴り響いているような世界がそこに広がっていた。  イエショウ共和国がテーマパークの装いなら、こちらは遥かに近未来的な異世界の装いを呈している。  電気で灯りがともされて、あちらこちらにネオンや電光掲示板まである新宿風の異世界街だ。  海も近くに見えるので新宿風より横浜風、はたまたホンコン風と言えば俺の頭で理解し易い街に変換できる。  出国と入国でここまで違う街に出会えたのは初めての経験だった。  街には車のような乗り物も存在していた。  なんか元の世界へ戻ってきたような居心地がする。  これでやっとドクターカーの修理もできるし、新たな医療機器の開発もしてくれるかもしれないと思うと胸がワクワクしてきた。  そのうえ、情報ソースもいろいろありそうだから、何か新しい話が手に入れば儲けものというものだ。
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