白騎士と魔石

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白騎士と魔石

 寺須一人で高台まで飛んで行ってしまったけれど大丈夫だろうか?  エンディーとブーブーも一緒だから大丈夫だとは思うけれども、オオカミのような魔獣が何匹いるかも分からない状態で先行するのは非常に危ない。  俺たちも急いで彼女を追いかけねば! 「ネンネ、大きくなって俺とベイリーを乗せて寺須を追いかけてくれ!」 「よーしマモルちゃん、オラに任してネン」  そう言うと、一気に体が膨れ上がり元の象くらいまでの大きさになった。  伏せるように寝てくれたネンネは鼻を伸ばし、そこから歩いて体に登るよう教えてくれた。  あとは振り落とされないようにしがみつくだけ。車と連結するための胴紐に俺は掴まり、ベイリーズは俺の背中に抱きつくように掴まった。  背中に軽く当たるほどの丁度いい感じの柔らかさが伝わってくる。  直に当たっているような感触は、おそらくブラジャーのような下着をつけていないのだろう。  地球でも国によってはブラジャーをつけない地域もあるので不思議ではないが、そのような文化の人と一緒に旅ができるなんて男としては少し嬉しい。  しかしながら、そんな感触を堪能できたのも束の間、ネンネは本気モードで青白い霧を撒き散らし、勢いよく走り出したのだった。 「ベイリー、俺から離れるなよ。俺の身体からマジックワクチングが発動してるはずだから、俺にくっついていれば眠くならないはずだ」 「了解です、マモルさん。マモルさんからとても優しい温かい魔法の力も感じますね」  俺も背中に温かいものを感じながら、加速するネンネから振り落とされないように必死にしがみついていた。  青白い霧に乗って低空を駆け抜けるように岩壁に沿って登った高台は、あっと言う間に頂上へと辿り着いた。  もう寺須と魔獣で交戦が始まっている模様。 「ミカちゃん、一人で行ったら危ないですよ」 「大丈夫だって、私には防具と魔石があるんだから」 「だからって、使い方をマスターしてないじゃないですか?」 「それも大丈夫。身体が勝手に動く【ナイトファイト】という魔石で、ある程度勝手に身体が動くみたいだから。バガラー様が教えてくれたのよ」  確かに彼女の動きは騎士のように無駄のない剣捌きをしていた。  小型魔法剣はナイフだけの扱いではなく、炎の魔石を付与させて刀身を炎で長くして戦えるらしい。魔獣を焼き切る事もできるようだ。  持ち運びも便利な女性用の剣なのだろう。  ただ【ナイトファイト】の魔石は剣技と直接防御に長けた自動魔法のようだが、魔石の使い方までは寺須に教えられないようだ。  ほとんど魔石を使わずに戦っている。 「大丈夫か、寺須?」 「大丈夫だって。この剣があれば勝てるから、一人で戦わせて」  こう言いだすと下手に助太刀ができないので手が付けられない。  近くに国境警備兵も来ているのに、彼らにも戦わせていないようだ。  なんちゃって白騎士が数の多いオオカミ魔獣を一網打尽にしたとニュースにでもなりそうな勢いで戦っている。  ただ、ベイリービーズたちは心配のようで、彼女の背中を守るように敵の足止めをしていた。  寺須の背後に回りながら彼女は魔石の使い方も説明している。  魔石には三つのルールがある。 1.使う魔石を触り詠唱する。  これが一番便利な使い方で、どの魔石がどの魔法だか覚えていないと使えないのが難点。 2.魔石を何度も指で叩いて起きるように願う。  魔法は精霊のようなものなので、叩いて起こして願えば力が放出される。  ただこの力は詠唱した時の半分くらいと思われる。  詠唱ができない時や詠唱名を知らない時はこれが一番なのだが、精霊によっては目覚めが悪いものもあるので注意が必要。 3.魔石を数回叩いて、精霊の主人に助けを乞う。  これが一番魔石を発動させやすい。精霊は7つの神と聖獣の管理下にあり、それぞれの名前に助けを乞えば、すぐに力を放出させられる。  これは詠唱した時の八割くらいと思われる。  例えば炎系の魔法は赤い魔石でできているので、赤い魔石を触り軽く叩いて「バガラー様助けて!」とか「フェニック助けて!」と叫べば、詠唱名を知らなくても発動すると言うわけだ。 4.詠唱も何もいらない時がある。  今のように魔法剣に装着した時や防具や壁、聖水に魔石が埋められている時、あとは潜在魔法として本人が所有している時など。  この状態でも詠唱名を呼んであげると、魔法が倍くらいの力になるから本気で守りたい時や本気で敵を倒したい時は是非詠唱をしてください。  オオカミ魔獣を相手にしながら、ベイリービーズの魔石説明は無事終了した。  寺須は身に纏った魔石の名前を憶えていないようだったが、フェニックから貰ったいくつかの魔石のひとつをイヤリングに付けていたようで、そこを軽く叩いて彼女は叫んだ。 「フェニック、力を貸して、ここのオオカミをみんな焼き払って!」  その瞬間、イヤリングの魔石が真っ赤に光だし、赤い炎がオオカミ魔獣全部を包み込むように焼き尽くしていった。  とても大きな炎なのに熱くもなく他の草木に燃え移る事もないフェニックの炎だった。  国境警備兵もこの炎の魔法に驚き、白騎士に拍手と称賛の言葉を送っていた。  その後もバッサバッサとオオカミをなぎ倒していく。俺は守り一辺倒で木刀を振り回し、攻撃は白騎士寺須ミカに任せた。 「どんなもんだい!」  天に炎の魔法剣を突き刺すように挙げた片腕は英雄の登場のような姿をしていた。  そうして寺須は一夜にして【イエショウから来た炎の白騎士】として有名人になっていたのだった。 「詠唱名をしっかりと覚えて、炎以外も使えるようにしてくださいよ」  危ない戦い方をしていた寺須にベイリービーズからの温かい小言を承っていた。  でも寺須が戦力になれば、これから先へ向かうダウンホールまでの道のりも少し安心だ。  魔力がないのか封印されているだけなのか分からない呪印の付いた彼女に、魔石という別の力が頼りになってくれれば非常に助かる。  呪印の解除ができれば、もしかしたら彼女も俺のように何か力が蘇るかもしれない。  俺はネックレスに付いたダイアモンドを触りながら、祖父と寺須を思いやった。  これも魔石だと以前言われたけれども、何色にも光っていない魔石って何なんだろう。  封印された精霊が深い眠りに就いているのか、無属性と言われている魔法が注入されているだけなのかもしれないけれど。
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