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序章
松平家登場人物】
○ 松平左近信平 (25歳)
徳川家綱より松平姓を賜り、
7000石を与えられ江戸に下向した、
徳川家綱の妻(正室) 孝子の弟。
徳川一門として剣を学び、
柳生新陰流・小野派一刀流免許皆伝
愛刀は義元左文字
○ 林崎主水重信 (24歳)
松平家の用人
風間出羽守の三男
神夢想林崎流の継承者
愛刀は三日月宗近
○ 三代目加藤段蔵(16歳)
松平家の家人 通称 飛び加藤
風間次郎太郎流の継承者
陰流免許皆伝
愛刀は鬼丸国綱
○三代目風間小太郎 (16歳)
松平家の家人 通称 風魔小太郎
風間出羽守流の継承者
神風流免許皆伝
愛刀は鬼切丸
○風間三姉妹
沙月(17歳)
水月(16歳)
葉月(15歳)
松平家の女中
風間出羽守流くの一
本流小太刀免許皆伝
愛刀は三日月
序章
日が落ちてからこそ忍の時である。
八つの人影が闇に紛れ駆けた。
八人は、落ち葉を踏んでも、
足音をたてずに、
歩ける術に、
熟練していた。
旗本松平左近屋敷では、
みな眠 りに、就いていた。
そんな中で、起きているのは、
宿直番だけであった。
宿直番は、寝ずに門を警固し、
周囲を警戒しなければならない。
だが、
一度も攻められるどころか、
侵入さえされていない。
気が緩むのも無理はなかった。
することもなく、
徹夜しなければならない、
退屈さに、
段蔵は全く油断していた。
小太郎は大番所で、
休んでいたが・・・。
常人には到底聞き分けられぬ、
本当に微かな音・・・
いや、
音という
より、
寧ろ気配を感じた。
気配を探りながら、
ゆっくり進み闇にまぎれ潜んだ。
八人は、軽々と塀を乗り越え、
四人一組二手に分分かれた。
一手は、陰に紛れ屋敷内に進んだ。
もう一手は、門前近くに潜んだ。
四人は、指で合図し門前近くにいた、
段蔵に狙いを定めた。
四人は、気の抜いたままに見えた、
段蔵に、木々の間から、
棒手裏剣を一斉に投げた。
闇からの棒手裏剣は、
地面を這うように飛来した。
「緩急くらいつけぬか」
段蔵は、愛刀鬼丸国綱を抜かず、
鞘ごと使って、すべてを一撃で、
弾いた。
忍の刀鞘には鉄が仕込まれている。
棒手裏剣は鉄の棒である。
太刀で叩けば、
下手おすれば折れる。
少なくとも欠けることは、
避けられない。
闇からふたたびの、
一斉手裏剣が飛来した。
段蔵は難なく一斉手裏剣をはたき落した。
四人が闇の中から溶け出すように、
姿を見せ素早く忍刀を抜き、
四方から段蔵を取り囲んだ。
四人は気を集中させ発した。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
「霧」
突然四方からゆらゆらと揺れ動く、
霧のようなものが漂ってきてた。
四人は霧の中に秘した。
段蔵も霧に囲まれた。
霧の中から凄まじい殺気が、
段蔵に迫迫った。
逃げる事は、不可能と思われる。
必殺の布陣であった。
しかし・・・
段蔵は、尋常では考えられない
高さまで真上に飛んだ。
その瞬間。
視界が開けた。
虚空から・・・
段蔵は、黒塗りの長針を投げていた。
三人が長針をはじき返したが、
一人が長針を喰らった。
段蔵は虚空で身体を捻り、
長針が当たった、
敵の頭上を、
越えて身構えた。
四人を率いる頭が闇に向って叫んだ。
「退け」
二人の忍は、
長針を喰らった忍を支えて、
素早く駆けた・・・
最後の一人の忍は、
段蔵の動きに注意を払いながら駆けた。
敵の姿は消えた。
「わざと逃がしたね、段蔵」
そう言って、
葉月が現れた、
「追う」
素早く闇に消えた。
もう一手は、
敷内に達していた。
四人は、音もたてず廊下を渡り、
音もなく、ふすまを開けて、
無人の座敷に、
するりと入り込んで、
そっと戸を閉めた。
四人は、座敷に入り込んで違和を感じた。
妖変な不気味さが漂っていた。
敵の気配もなく、敵も見えない中、
四人は、戦闘態勢に入り身構えた。
突然・・・
緩やかな風が吹き・・・
暗闇が廻り出し・・・
四人は金縛りに・・・
身動きが取れなくなった。
「風魔流・・・闇捕捉の術」
四人は、
体が痺れ、意識が薄れていくなかで、
気魄を魅せた。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
九字を発した。
最後に「滅」と 十字を斬り、
四人は、口の中の袋を、噛んだ。
毒が舌にながれ体内に入り込んだ。
四人の身体はぐったりと倒れた。
「侮れない忍だ」
小太郎は、
何処の者か考えに耽りながら、
用人林崎主水 の部屋に駆けた。
部屋から出た、
主水と渡り廊で合った。
何事が起きた、主水が問う、
小太郎は、委細を話しながら、
主水と共に、
敵が倒れている部屋に戻どった。
小太郎は、は呆然とした。
四人が消えていた。
「確かに仕留めたはず・・・」
「未熟なり・・・」
主水が、考え込んだ。
「何者」
「風魔の術を破るとは、恐るべき敵」
もしや、
阿片の密輸組織ではないか・・・
近年、江戸では、
阿片中毒の患者が、多発していた。
家綱は上意をもって、
薬改め役を新設させ、
松平左近を、
老中格薬改め役に任命した。
評定所は松平屋敷内に置かれ、
役人は書院番から二名、
勘定方から二名、
医師が一名が住み込んでいた。
探索方書院番の捜査の過程で、
浅草寺門前町の古着商西田屋が、
持ち船二隻を使って、
密輸をしている情報を、
掴んだばかりであった。
西田屋は、古着を江戸府内に、
止まらず諸国に流通させ、
広域な船商いを完成させ、
さらに京、大阪など、
仕入れ先を多彩にして、
商売の規模を広げていた。
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