かんせん。

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かんせん。

海花(うみか)ちゃーん、あと五分で消灯だからー」 「あーもうわかってるってば、うっさいな!」  私は遠くから叫んでくる母に向かって、イライラと返した。  中学生が、いつまでも夜ふかししていてはいけないという言い分はわかる。しかし、なんで毎日十時にはパソコンを落として消灯していなければいけないなんてことになるのだろう。我が家ルールはなんとも理不尽だ。同年代の友達だって、もっと遅い時間まで全然起きているしゲームだってしているというのに。 ――今いいところなんだから静かにしてっての!あと五分しかないっていうなら、五分間めいっぱい使わせろよな、まったく!  私が食い入るように見つめているのは、人気ヨウチューバー“アサシンZ”の動画である。間抜けな悪役というコンセプトらしく、物騒な名前に反して非常にコミカルなヨウチューバーが彼だ。赤いマントを着て仮面を被っているとう、昔のアニメの小悪党のような姿をしている。  チャンネル登録者数は五百万人超え。  一回の生放送で、平均ウン十万以上の視聴者が閲覧するという人気ぶり。  その最大の面白さは、オカルト関係の過激なことをどんどん実演して生放送してくれるというところだろうか。超絶辛い食べ物や、やばい生き物を探してくるよりこっちの方が全然安全だからね!というのが彼の言い分である。確かに、オカルト関係は毒キノコよりも遥かに“ヤバイ”確率が低そうではある。絶対踏み入ってはいけないとされる神社の跡、廃病院に行くのはもちろん、都市伝説とされている多くの儀式やおまじないを実演してくれるのが彼だ。  自分で試す度胸はないけれど、どんなものか興味はある。私を含め、そんな視聴者が数多く彼の動画に熱中し、イイネを押しているのだろう。 ――ひとりかくれんぼで、マジでぬいぐるみが動いたのは怖かったなあ。まあ、成功すればなんの問題もないみたいだけど、本当にヤバイおまじないってあるんだねえ。  幽霊なんか殆ど信じていなかった私だが、彼のおかげで“一部にはアタリがいる”ということも最近は納得しつつある。  アサシンZは本物に行き当たると、子供のようにびびって椅子から転げ落ちそうになりながら、それでも確実にミッションをこなしてくれるから面白いのだ。同時に、安心して見ていられるとも言える。本人はわりと本気で怖がっていたり、命懸けてあるのかもしれないが。  今回彼が挑戦するのは、ある西洋由来の怖いおまじないらしい。  何でも、悪魔を呼び出して契約し、お願いを聞いてもらおうというのだ。  彼が今日の企画を発表した途端、コメントはいつも通り笑いで溢れた。アサシンZは“世界征服を目論む魔王の下っ端として、力を集めるため様々な幽霊やオカルトとの接触を図るヨウチューバー”という設定である。本気で魔王のために力を尽くします!という真に迫った演技がまた面白いのだ。なんでも、学生時代は演劇部に入っていたらしい。
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