かんせん。

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「!?」  赤い魔法陣が、文字通り――ふわり、と紙の上から浮かび上がった。まるでCGでの合成を疑うかのような見事な光景。アサシンZも驚いたように、口をぽかんと開いている。なんだかんだ言いながら、本人も半信半疑であったのだろう。  赤い魔法陣に、黒い墨汁が吸い込まれ、一体化していく。最後はくしゃくしゃに丸めた紙のように魔法陣と墨汁が小さくなって――ぽん、と真っ白に戻った紙の上に落下した。  “魔法陣だったもの”がむくり、と立ち上がる。黒い身体に赤い縞模様を巻きつけたようなそれは、子犬くらいのサイズの小人であった。小人はこちらを覗き込むアサシンZを見て、きいい、ち鳴き声を上げた。 『お、おおお!ま、まさか君が、悪魔・ルイアンタンか……!』  やがて、しばし固まっていた様子のアサシンZは。これが生放送であったことを思い出して我に返ったようで、やや腰が引けながらもしゃがみこみ、小人に向かって手を合わせた。 『頼む、俺を世界一有名なヨウチューバーににしてくれえ!閲覧数登録者数、億超突破したいんだ!』  具体的な要望を告げた彼を、どこか可愛らしくもある小人はじっと見つめると。やがて、ちんまりした腕を上げて、甲高い声で言った。 『ヨイダロウ。オ前ヲ、人気者ニ、シテヤル』  次の瞬間。予想だにしていなかった事件が、起きる。怪物に両手を合わせていたはずの彼の腕が、ぐぐぐ、と大きく持ち上がり始めたのだ。 『ん、え?』  驚いたように、仮面から覗く目を見開くアサシンZ。まるで何者かに操られたように彼の両腕が左右に向かって伸ばされる。中腰の姿勢のまま、戸惑ったように自分の腕を見つめる彼。  次の瞬間、ごき、という耳障りな音が響いた。そして。 『い、痛い痛い痛い痛い!何するんだ、やめてくれ!う、腕が、ちぎれちまう!』  いつものコミカルな悪役を演じる声ではなかった。本気で慌てたように、彼は首をぶんぶんと振ってもがいている。両腕は、空中にぴたりと固定されたように動かないらしい。ぎしぎしと嫌な音が、画面ごしに響き始める。本気で痛そうだ。 『え、何してるの?』 『両腕ちぎれますアピ?演技でしょ』 『おお、すごい。これは悪魔の信憑性増しそうですわ』 『迫真の演技!』 『いや、これほんとに演技か?マジで腕抜けそうになってない?』 『なんか怖くなってきたんだけど』 『何が起きてんのこれ?マジ?』  半信半疑、あるいは彼の演技を指摘するコメントがあふれる。この時はまだ、私もきっと演技だろうと思っていた。むしろ、演技だと思いたかったのかもしれない。どんどん青ざめていくアサシンZの顔、ぎしぎし音を立てる腕、それらが現実だと思ったら――恐怖以外の何物でもなかったのだから。  きっと、膠着状態は僅か数十秒程度のことであっただろう。  ぼくん、と。鈍い音がした。次の瞬間、マイクをハウリングさせるほどの絶叫が響き渡る。 『ひ、ぎゃああああ!う、腕が、お、俺の、俺のおお!』  彼の肩の間接が、肘の間接が、異様なほど伸びている。まさか外れたのか、と私は絶句した。だが、地獄はまだ終わらない。彼がどれほどぶんぶんと頭を振り、足をじたばたさせてもがいてもどんどん腕は左右に伸ばされていく一方だ。  恐怖と苦痛から、泡を吹き始めるアサシンZ。さらに彼の衣装の股間が、じんわりと色を濃くしていく。失禁しているのだ。さすがに呑気にしていた視聴者達も、異変に気づき始める。 『これ、警察呼んだ方がいいんじゃ』  そう、誰かが呟いた次の瞬間。  ぶち、ぶちぶちぶちぶちぶちぶち!  骨が、神経が、筋肉が断裂する――凄まじい音。  男のひび割れた断末魔。  両腕をなくした身体が崩れ落ちるのを隠すように、カメラに向かって飛び散った赤、赤、赤。  阿鼻叫喚となるコメント欄。真っ赤に染まり、殆ど何も見えなくなってしまった画面に。甲高い、“ナニカ”の声が響き渡った。 『望ミ通リ、コレデオ前ハ有名人ダ。  次ハオ前達ノ番。命ト引キ換エニ何ヲ叶エタイ?  ソウ、ソコノオ前ダヨ。大島海花……』
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