魔法の言葉

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 私はキッチンへ向かうと、いつものように特売用のささみ肉を数本皿に乗せてラップをしてからレンジで蒸す。 「……あと、五分っと」  その瞬間、ふとあの日に出会った女の子のことを思い出す。  あれから、あの子を探してみたけれど結局見つかることはなかった。  青い屋根の家に住んでいたのは、確かにミカさんとケイスケさんという若夫婦だったけれど、そんな女の子は見たこともないと言っていた。  そして、その隣に住む話し相手になっていると言っていたヒロシさんというおじいさんに聞いてみても、わからないままだった。  あの女の子は、一体何者だったのだろうか……。  “__あと、五分待て”  あの時は切羽詰まっていて気づかなかったけれど、その言葉はいつも私がルナに言っていた言葉。  ……まさかね。  と、思いながらキッチンからこそっりとリビングを覗くとルナは窓枠に座りいつものように毛繕いをしている。  目が合うと「にゃー」と、鳴く姿はどこからどう見ても普通の猫だ。  化け猫のように身体が大きいわけでもないし、猫又のように尻尾が二又に分かれているわけでもない。
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