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いよいよ手術の日がやってきた。
俺は少しでも相楽さんのそばについていたくて、高校に行かずに病院に急いだ。ずる休みなんて初めてすることだった。
手術室の前で待つために、病院一階の奥へ行こうとする。その俺の視界に入ってきたのはパジャマ姿の相楽さんだった。病棟から出ていこうとしている相楽さんを俺は慌てて追いかけた。こんな時、松葉杖は不便で仕方ない。
病棟と外来をつなぐ廊下の下に中庭がある。どうやら相楽さんはそこに向かっているようだった。
松葉杖が忌々しい。俺は、
「相楽さん!!」
と大声で相楽さんの後ろ姿に呼びかけた。相楽さんはびくりと肩を震わせ、走って逃げようとした。だが、心臓がそれを許さなかったらしい。相楽さんはその場にくずれて、荒い息をしながら心臓あたりを手で押さえていた。
その間に俺は松葉杖を駆使して、相楽さんに近づいた。
「何してんだよ! 手術受けてるんじゃなかったのか?!」
つい声が荒くなる。相楽さんは肩で息をして、言葉を発することができないでいた。
「きっと看護士さんたちだって探してるはずだ。俺、呼んでくるからここで待ってて」
俺が言ってその場を離れようとすると、相楽さんが口を開いた。
「だって、恐かった、ん、だ、もん」
俺は相楽さんを振り返った。
恐い。それは当然だ。一度自分の心臓が止まるのだ。その心臓が動き出す確証なんてどこにもない。
「怒鳴ってごめん」
相楽さんはまだ苦し気に、首を振った。
「それでも、俺は相楽さんに手術を受けてほしい。手術を受けたからと言って、何年もは寿命が延びないかもしれない。それでも、たとえ5分だっていい。いや、数分でもいい。俺は相楽さんと一緒の時を過ごしたいんだ。
俺は相楽さんに会えなくなるのが恐いよ。一緒に花火見られなくなるのが恐いよ」
「それ、は、私、も」
「俺は相楽さんに諦めてほしくないし、俺も諦めない。俺はどんなにきつくてもサッカーのレギュラーに復帰するつもりだし、相楽さんの心が俺に向いてなくても向かせるまで諦めない。後悔はもう嫌なんだ」
相楽さんは俺を見て涙を流した。
「手術、成功、するかな」
「きっと成功する。俺は、相楽さんと俺の未来を信じる」
相楽さんは泣きながら笑った。
「今からでも、手術、できる、かな」
「聞いてみよう」
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