5分だけでも

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「ありがとう。私、こうして男子と一緒に花火見られるなんて思ってなかった」  花火が上がる前のことなどなかったように相楽さんは微笑んでいた。 「これからも俺でいいなら一緒に見るよ。来年も再来年も」  俺の言葉に、相楽さんの笑顔が悲しげに陰った。 「あのさ、坂口君。この前言ってた点数。100になることはないんだ。私には未来がない。そんな私と付き合っても不幸にさせてしまう。だから私のことは今日で諦めて」 「不幸になるかならないかは俺が決めることだ。それに俺は諦めるのは嫌だ」  相楽さんは一度俺を見て、目を潤ませた。それを誤魔化すように相楽さんは階段の方を向いて、 「戻ろっか」  と言った。 「なんで? 手術したらまだ生きられるのに、なんで手術しないんだよ!」  俺は腹立たしい気持ちになって相楽さんに言葉をぶつけた。 「言ったじゃん。花火のように生きたいんだって」 「じゃあ、相楽さんは輝けたのかよ?」  相楽さんは浮かべていた笑みを完全に消した。 「何それ。私が何もしてないって言うの? 坂口君に私の何が分かるの?!」 「分からないから教えてくれ」  相楽さんは色の悪い唇をかんだ。 「中学の時だって入院ばかりだったけど、自分で勉強頑張って県下でもトップクラスの高校に入ってるじゃない」 「まあ、それはそうだな。で、苦労して入った高校で何か出来たの?」  我ながら意地悪な質問だと思った。相楽さんの顔がくしゃりと歪んだ。 「小さい時から心臓のせいで運動制限があった。始めは遊びに誘ってくれた子たちだって、行けないって断れば誘わなくなってく。学校も休みがちだから行事にも参加できない。心臓のせいで輝ける時間なんてなかったも同じ。でも、私は私なりに懸命に生きてるんだよ!」 「だったらなんで諦めるんだよ? 手術してもっと生きられればこれからも花火一緒に見るだけじゃなく、色んな楽しいことできるんだぜ。友達だって、なんで諦めるんだよ。誘われなくなったって、自分が友達でいたいと思えば自分から誘えばよかったんだ」  俺の言葉に相楽さんは瞳を大きく開き、俺を睨みつけた。 「簡単に言わないで! 手術手術って言うけど、手術したって寿命がどのくらい伸ばせるなんて分からないし、胸に大きな傷が残るだけよ! それに、心臓を一度止めてする手術なんだよ?! それで死ぬことだってあるんじゃないの?!」  心臓を止めてすると言う言葉に驚き、俺はぐっと黙った。 「それなら傷もない綺麗なまま死んだ方がまし」 「そんな! お願いだから、そんな悲しいこと言わないでくれ!」  俺の口から血を吐くような言葉が漏れた。 「手術はそんなに難しいものなのか?」 「成功率は80%ぐらいじゃない? 手術中に亡くなった事例はもっと少ないみたいよ。でもその後の寿命はその人次第」  成功率は高いと感じた。でも、運悪く手術したことでしないより寿命が縮んだら?   相楽さんの不安はもっともなことだ。  でも。俺だったら、どちらに賭ける?
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