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「俺はたとえ5分でも相楽さんには長生きしてもらいたい。一緒にいたい」
「5分? 5分なんてすぐじゃない」
相楽さんは薄く笑った。
「確かに短い時間だ。でも、サッカーでは貴重な時間だよ。俺はあと5分って時に、焦って怪我してこのザマだ。試合は負けた。足を怪我しなかったら逆転、いや同点にして、PKに持ち込めたかもしれなかったのに。今でも思い出すと悔しくて、あの5分をやり直したいって思う。たった5分でも大切な大切な時間だったんだ」
俺の独白に、今度は相楽さんが黙った。
「本当に悔しい。でも、こうも思っている。俺は怪我したから相楽さんに会えた。そして、怪我したから相楽さんの人生を5分でも伸ばすことができるかもしれない。そう思えば怪我したことも無駄じゃない」
俺は相楽さんの目をじっと見つめた。
「相楽さん。恐いのは分かる。でも、死ぬ覚悟ができてるなら、手術で死ぬのだって恐くないはずだ」
「そんなの……! 恐いに決まってるじゃない! 胸を切り開くのよ! 醜い傷だって残る! そこまでして結局結果が出なければどうなの!?」
相楽さんの瞳から涙が溢れた。
「醜くなんかないよ。相良さんが懸命に生きる選択をした証だ。そんなに気にするなら俺がもらってやるから」
俺の口から出た言葉に、相楽さんが呆気にとられたように俺を見た。
「俺、相楽さんともっと一緒にいたいんだ。手術、受けてほしいよ。少しでも長生きしてくれよ。俺と一緒にいてくれよ」
瞬間、相楽さんが俺に抱きついてきて、俺は松葉杖を落としそうになった。
「私、手術したらもっと生きられる?」
「きっと」
「本当に私をお嫁さんにしてくれるの?」
「たぶん」
「何よ、それ!」
「一緒に長く過ごそう。そして、花火見るだけじゃなくて、色んなことを二人でしよう」
俺は松葉杖を転がして相良さんをそっと抱きしめた。
「……だったら、私、うんと長生きしてやるわ」
「その調子だ。花火は見るだけで十分だ」
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