九月二十二日(火)

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 何て二週間だったろう。  これだけ頑張って調べても、結果は変わらなかった。  笹岡は目の前の選択肢を捨て、自分の美学のために死にゆく。  電車が国分寺に着き、下車しながら、そんなことを考える。  けれど、まだできることが残っているかもしれない。  学校に到着するが、当然の如く北棟に生徒の影は無い。  時間的には三時を過ぎた辺りで、演劇祭の結果発表が終わる時間帯だ。  急いで講堂へと向かった。  (はや)る気持ちを押さえ、正門から校舎の左を塀にそって進み、南棟の脇を目指す。  講堂の入り口には『第三十回演劇祭』の立て看板があった。  微かなざわめきが、開いた扉を伝って聞こえてくる。  円形に広がるホールを通って、観客席の最後部に繋がる、三階の出入り口へ向かう。  ゆっくりと扉を開けると、ちょうど、優勝の結果発表の瞬間だった。  先ほどまで聴こえた波のような声が、嘘のように凪いでいた。  講堂内が静まり返る中、俺が扉を開く音と、演劇部部長のアナウンスが重なる。 「優勝は……―」  間があった。  生徒たちは固唾を飲んでいる。  ある者は手を組んで祈り、ある者は脱力した姿勢でステージを眺めている。  誰もがーー希望を持つか、絶望を抱くかは違ったがーー結果のことについて考えていた。  まごうことなき、演劇祭の最期だった。 「三年七組!」  その瞬間、講堂の前方席の、三年生の一団が声を上げた。  生徒たちは互いに抱き合って、大きく手を突き上げている。涙を流すもの、笑顔のもの、その表情は多様だった。  講堂中ほどにある、二年四組の方に目を向けた。  クラスメイトたちは、皆一様に柔らかい表情で結果発表を眺めている。  笹岡の表情は見えなかった。  奴の背中は、何も語らない。  ただ、背もたれに背を預けているばかりだった。  俺はただ、その光景を見つめることしかできなかった。  三年で、たった一度。それが今終わったのだ。  ただ、拍手の音だけがホールに響いていた。
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