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西念から連絡があったのは、笹岡に話を訊いた直後だった。
LINEに入った文面は、『十八時半、国分寺駅前、モスの前』。以上。
こんな俳句で意味が解るのは俺くらいのもんだと思う。
とりあえず、平日最後の演劇祭準備を終え、学校を出る。
国分寺駅のコンコースを通り、交差点の向こうにあるモスに目を向けるが、その前に西念の姿は無い。腕時計を見ると、時刻は十七時五十分。案外早く着く。
信号の色が変わり、横断歩道を渡ると、モスの前に到着した。
待ち時間が退屈で辺りを観察していると、店の前にはスーツを着た男性が立っている。
サラリーマン……だとは思うのだが、それにしては雰囲気が刺々しい。
仕事終わりなのだろうか。ネクタイは取ってあって、ワイシャツの前も寛げていた。
気が立っているのか、爪先でイライラと地面を叩いていて、せっかくの革靴が台無しになるのではと不安になる。
この男性の隣に立つのは、少し怖い気がした。あまり関わり合いたくない人種である。
柄にも無く、「西念よ、サッサと来い」と思ってしまう。
そんなこんなで時間が過ぎるのを待っていると、十八時を一分過ぎてから、西念が駅のコンコースを通り抜けて来るのが見えた。
実習最終日だし、実習生同士で打ち上げとかしないのだろうか、と考えつつ、奴の方に向けて手を挙げる。
と、隣の男性の手も、同時に挙がった。
男性もこちらの挙動に気付いたのか、自然と目を合わせる形になる。
彼もまた、待ち合わせ相手を見つけたのだろうか、と周囲にさりげなく視線を向けるが、信号を渡って来るのは西念だけだった。
その西念が眠そうな目を少しだけ丸くして、俺たちに言った。
「お前ら、いつの間に仲良くなったんだ?」
その言葉に、俺と男性はもう一度目を合わせた。
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